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目次

小学校における子どもの便秘:知っておくべきこと

文責:鵜川医院 鵜川邦夫

日時:2025年8月28日

於:大山小学校

はじめに

子どもの便秘は、一時的な体調不良として見過ごされがちですが、その実態は、子どもの身体的・精神的な健康、さらには将来にわたる生活の質に深く関わる、見過ごすことのできない重要な課題です。この文章は、国内外の最新の知見と、現場の経験に基づき、子どもの便秘の本質、正しい認識、そして実践的な解決策を包括的に提示します。

第一部:子どもの便秘:その本質と大人の便秘との決定的な違い

この章では、子どもの便秘の正しい定義を示します。なぜ大人の便秘と同一視してはならないのか、その決定的な違いを明らかにします。子どもの便秘は、大人とは根本的に異なる心理的・行動的な要因が複雑に絡み合って形成される状態です。

1.1 子どもの便秘の定義と見過ごされがちな兆候

子どもの便秘は、単に排便の頻度が少ない状態を指すものではありません。一般的には「週に3回未満の排便(2回以下、と表現されることもあり、同じこと)」または「5日以上排便がない」状態が便秘と定義されますが、これはあくまで一つの目安に過ぎません¹。例えば、毎日排便があったとしても、排便時に苦しそうにいきんだり、肛門が切れて出血したり、硬く小さな便しか出ない場合も便秘症に該当します ¹。これは、便の性状や排便時の苦痛が、便秘の診断において非常に重要な要素であることを示唆しています。

便秘の兆候は、便の回数や硬さといった直接的な症状にとどまりません。子どもは便秘による不快感や痛みから、不機嫌になったり、お腹を押さえたりするといった特定の行動をとることがあります³。また、親が最も見過ごしやすい兆候の一つに「遺糞症」があります。この言葉を小児科医ではない自分は初めて知りました。消化器内科医の私は「奇異性下痢」などと表現する事があります。すごく短いブログを2010年、15年前に書いていたことに気づきました。違うんです。

これは、便秘によって腸内に硬い便塊が蓄積し、その隙間を柔らかい便がすり抜けて、下着を汚してしまう状態です⁵。保護者がこれを下痢と誤解してしまい、便秘という根本原因の発見が遅れることが少なくありません。

1.2 なぜ「子ども自身」が便秘を判断できないのか

子どもの便秘が大人と決定的に異なるのは、子どもが自身の便秘を正確に認識し、言語化することが極めて困難である点です。この問題は、排便時の痛みとそれに伴う恐怖から始まる悪循環によって引き起こされます。硬い便を出す際に痛み(裂肛など)を経験すると、子どもは排便を恐れるようになり、便を我慢する行動に出ます¹。この我慢によって便はさらに硬くなり、次の排便がより痛みを伴うものとなるという負の連鎖が形成されます。この悪循環が続くと、直腸に便が溜まり、便意を感じる神経が鈍化し、最終的に便意そのものが消失してしまうことがあります。

この状況は、子どもが自身の状態を正確に表現できず、周囲の大人も便秘のサインを誤って解釈するという、複合的な問題を引き起こします。例えば、英国で行われた調査では、学齢期の子どもの76%が学校で排便することに恥ずかしさを感じ、30%が便意を催すのを恐れて昼食を抜くことが明らかになっています 7。こうした行動は、子どもの便意そのものが保護者や教師の認識から完全に隠れてしまう可能性を示唆します。子どもは便秘の不快感を抱えている一方で、保護者は下痢と誤解していたり、排便の兆候に気づかなかったりします 5。このような認識のギャップは、子どもの便秘において最も根深い課題の一つであり、保護者が知識を更新し、子どもの状態をより注意深く観察することが、問題解決の第一歩となります。

【表1:子どもの便秘診断チェックリスト(ローマ基準)】

  • Rome III
  • 発達年齢が少なくとも 4 歳以上の小児では,以下の項目の少なくとも 2 つ以上があり,過敏性腸症候群の基準を満たさないこと.診断前,少なくとも 2 か月にわたり,週 1 回以上基準を満たす.
    1. 1 週間に 2 回以下のトイレでの排便
    2. 少なくとも週に 1 回の便失禁
    3. 便を我慢する姿勢や過度の自発的便の貯留の既往
    4. 痛みを伴う,あるいは硬い便通の既往
    5. 直腸に大きな便塊の存在
    6. トイレが詰まるくらい大きな便の既往

第二部:専門家への相談:なぜ小児科医の役割が不可欠なのか

子どもの便秘は、保護者単独で解決できる問題ではありません。この章では、専門家である小児科医への相談がなぜ不可欠なのか、そして放置がもたらす深刻な影響について詳述します。

2.1 正確な診断の重要性:Rome基準の役割と「危険な兆候

子どもの便秘の診断には、国際的な診断基準である「Rome基準」が用いられます⁹。これは、4歳以上の子どもを対象に、排便の頻度、便の性状、我慢行動、便失禁など、複数の側面から総合的に判断するものです¹⁰。機能性便秘(深刻な病気が原因ではない便秘)は全体の90%以上を占め、多くの場合、特別な検査は不要とされています ¹⁰。しかし、専門家は、成長不良、血便、お腹の張りといった「危険な兆候(Red Flags)」がないかを確認し、器質的疾患(身体的な構造の問題など)の可能性を慎重に除外します³。この専門家の視点による正確な診断が、適切な治療への第一歩となります。

2.2 放置がもたらす長期的な影響

便秘を放置すると、単なる身体的な不快感にとどまらず、子どもの心身に多大な悪影響を及ぼします。身体的には、腹部の膨満や不快感から腹痛や食欲不振を引き起こすことがあります ³。また、溜まった便が膀胱を圧迫することで、夜尿症や反復性の尿路感染症を併発するリスクも高まります ⁴。

さらに深刻なのは、心理的・社会的な影響です。遺糞症による下着の汚れは、子どもに強い恥ずかしさや劣等感をもたらし、自尊心を大きく傷つけます⁶。このようなストレスは、集中力の低下やイライラを引き起こし、学業や日常生活に支障をきたす可能性があります。夜尿症や遺糞症は、いじめや不登校の原因となることも報告されており、子どものメンタルヘルスに深い傷を残す可能性があります ¹¹。保護者からの叱責や、周囲の人間からのからかいが加わると、この心理的悪循環はさらに悪化します ⁶。専門家への相談は、単に便秘という身体的な問題を解決するためだけでなく、放置することで生じる自尊心の低下や社会的孤立といった、子どもの心に深く根付く可能性のある「第二の病」を予防するために不可欠です。この視点は、便秘治療の重要性を、単なる排便習慣の改善から、子どもの健やかな成長と未来を守るという、より広範な課題へと昇華させます。


第三部:最新の治療法と海外の標準:日本における進歩

この章では、子どもの便秘に対する最新の治療法と、国際的な標準治療について解説し、日本における治療環境の進歩を強調します。

3.1 便秘治療の二本柱:薬物療法と生活習慣の改善

子どもの便秘治療は、まず腸に溜まった便を出す「便塊除去」から始め、その後、便を柔らかく保ち、排便習慣を整える「維持療法」へと移行するのが一般的です ¹³。この二つのフェーズにおいて、薬物療法と生活習慣の改善は「両輪」として機能し、どちらか一方だけでは根本的な解決は難しいとされています ¹⁴。

3.2 世界で推奨される治療薬「PEG(ポリエチレングリコール)

世界的に見て、小児の便秘治療において最も推奨されている薬剤はPEG(ポリエチレングリコール)です。PEG製剤(商品名:モビコール®)は、マクロゴール4000を主成分とする浸透圧性下剤であり ¹⁵、腸内の水分を便に引き寄せ、便を柔らかくすることで自然な排便を促します ¹⁵。消化管からほとんど吸収されないため、副作用が少なく安全性が高いとされており、海外では「長期使用でも腸が怠けることはない」というメッセージが保護者に安心感を与えています ¹⁴。

日本でも、2018年11月末から2歳以上の小児慢性便秘症に対するPEG製剤の保険適用が認められました ¹⁸。これは、海外では古くから第一選択薬として位置づけられていた薬剤が、ようやく日本でも本格的な治療薬として使用できるようになったことを意味します ¹⁹。日本の臨床研究では、PEG製剤の導入により、80%の子どもが「完全に自力排便できる」状態にまで有意に改善したことが示されており、日本の小児便秘治療における大きな転換点となりました ¹⁸。この進歩を最大限に活かすためには、保護者が「薬は一時的なもの」という誤解を捨て、薬物療法に対する正しい知識と安心感を持つことが重要です。

【表2:主要な便秘薬の概要と違い】

薬剤の種類主な作用機序海外での位置づけよくある誤解への回答
PEG製剤 (ポリエチレングリコール、 モビコール®)浸透圧性下剤。水分を腸内に保持し、便を柔らかくする。多くの国で第一選択薬として推奨。長期使用の安全性も確立。「腸が怠ける」という誤解があるが、消化管からほとんど吸収されず、長期使用でも依存性はない。
酸化マグネシウム浸透圧性下剤。腸内の水分を増やし、便を柔らかくする。古くから広く使用されている。過剰摂取は高マグネシウム血症のリスクがある。
刺激性下剤大腸のぜん動運動を直接刺激する。頓服での使用が主。長期使用は推奨されない。習慣性や依存性のリスクが指摘されることがある。

3.3 継続治療の重要性:なぜ「2〜3ヶ月」ではなく「数年」の視点が必要か

便秘治療の成功には、長期的な視点が不可欠です。海外のリソースは、便秘治療が「数ヶ月から数年」にわたって必要となる場合があることを明確に示しており、早期に治療を中止することが再発の一般的な原因であると警告しています ¹⁴。日本の医療機関の報告でも、半数以上の子どもが「2年以上治療が必要になる」ことが示されています ²⁰。

便秘は単に便が溜まっている状態ではなく、腸の機能が慢性的に低下し、排便に対する恐怖や我慢といった心理的要因が絡み合った複雑な状態です。このため、便が柔らかく、痛みなく出せる状態を長く続けることで、鈍化した腸の機能と排便への感覚を徐々に正常に戻していく必要があります。これは一朝一夕に達成できるものではなく、保護者と子どもの根気強い取り組みが不可欠です。


第四部:家庭と社会の役割:便秘のタブーをなくすために

子どもの便秘は、家庭や個人の問題に留まらず、社会全体で取り組むべき課題です。この章では、国際的な取り組みから学び、家庭と学校が連携して築くべき新しい環境について考察します。

4.1 海外の啓発キャンペーンから学ぶこと

海外では、排便のタブーをなくすための積極的な啓発活動が行われています。英国の大手トイレットペーパーブランドAndrexは、「Conquer the school poo」キャンペーンを展開し、学校での排便に対する子どもの恥ずかしさや恐怖心に焦点を当てました ⁷。

このキャンペーンは、排便のタブーをユーモアと親しみやすいアプローチで解消し、子どもたちが「Get Comfortable(快適になる)」ことを目指しました ²¹。また、米国の便秘薬ブランドDulcolaxは、「うんちをするお姫様」といった物語を用いて、子どもの便秘についてオープンに話し合える環境づくりを提唱しています。これらの事例は、企業が単なる商品提供者から、文化を変える主体へと進化しうることを示しています。

Conquer the school poo - School Camapign | Andrex®

4.2 家庭でできる実践的な習慣づくり

海外の保護者向けリソースは、便秘改善のための実践的な行動変容療法を推奨しています ¹³。

  • トイレ習慣の確立: 毎日決まった時間(特に食後)にトイレに座る習慣をつけることが重要です ¹³。足を地面につけ、ひざが腰より高くなるように足置き台(スクワティーポティーなど)を使用することで、排便しやすい姿勢を確保できます ¹⁴。(類似製品たくさんあり)

    Squatty Potty - The #1 Way to #2!

  • ポジティブな経験に変える: 「トイレ日記」で排便のタイミングや状態を記録したり、「ごほうびシール」でトイレに座れたこと自体を褒めることは、排便をポジティブな体験に変え、子どもの自発性を促す効果があります ¹³。最も重要なのは、排便の有無に関わらず、トイレに座るという行動自体を褒めることです。

  • 食生活の改善: 十分な水分(1日6〜8杯の水、とされる)と、食物繊維を豊富に含む食品(全粒穀物、豆類、野菜、果物)の摂取を奨励します ²²。

【表3:便秘改善のための実践ガイド:生活習慣・食習慣のヒント】

習慣の種類実践ポイント
トイレ習慣毎日同じ時間にトイレに座る(食後が最適)。足置き台を使ってひざを高くする。
食事・水分十分な水分(水、お茶など)を摂る。食物繊維が豊富な食品(野菜、果物、豆類、きのこ類)を積極的に摂る。
運動遊びや運動を通じて体を動かす機会を増やす。
心構え便秘についてオープンに話し、排便を我慢したことを決して叱らない。トイレに座れただけで褒める。

4.3 日本の文化と学校の環境における課題

日本の学校における和式トイレは、排便姿勢の面では理にかなっていますが、清潔感やプライバシーの問題から、子どもが使用をためらう原因となることがあります。また、「音姫」に象徴されるように、排便音や臭いを隠す文化は、排便に対する羞恥心を潜在的に強化し、学校での排便を我慢させる一因となりえます。

便秘は、単に食物繊維や水分が足りないという個人レベルの問題ではなく、子どもが「排便を我慢せざるを得ない環境」が引き起こす社会的な問題でもあります。このため、便秘対策は家庭内での食生活改善やトイレトレーニングに留まらず、学校のインフラ整備や社会全体の啓発活動にまで広がるべきです。学校は、清潔でプライバシーが守られた洋式トイレの整備を推進し、家庭は、子どもとの間で「うんちの話」をオープンに行うことで、排便のタブーをなくし、子どもの羞恥心を取り除くべきです。


第五部:結論:保護者の意識アップデートが子どもの未来を拓く

本報告書は、子どもの便秘に対する保護者の認識のアップデートが、いかに子どもの未来を左右するかを訴えるものです。

5.1 報告の要約と今後の展望

子どもの便秘は、大人の便秘とは全く異なる、子ども特有の悪循環によって生じる複合的な問題です。これを放置すると、身体的な不調だけでなく、心理的な「第二の病」を引き起こし、子どもの自尊心を傷つける可能性があります。早期に経験豊富な小児科医に相談し、正しい診断と治療を開始することが、この負のスパイラルを断ち切る唯一の道となります。

PEG(ポリエチレングリコール)の日本での保険適用は、日本の小児便秘治療を世界レベルへと引き上げる画期的な出来事です。この進歩を最大限に活かすため、保護者が薬物療法に対する正しい知識と安心感を持つことが不可欠です。

5.2 最も大切なメッセージの再確認

子どもの便秘は、本人の力では解決できません。それは「自分で判断できない」がゆえに、周囲の大人、特に保護者の観察と行動にかかっています。便秘は決して恥ずかしいことではなく、便についてオープンに話せる家庭と社会の環境を築くことが何よりも重要です。

たかが「うんち」の問題と軽視することなく、保護者の意識をアップデートし、適切なケアを継続すること。それが、子どもの健全な成長と、将来にわたる幸せな生活を守る、最も確実な一歩となります。


引用文献

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  2. 【小児科】小児の便秘と綿棒浣腸について - ハピコワクリニック五反田, 8月 22, 2025にアクセス、 https://hapicowa-clinic.jp/blog/%E3%80%90%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91%E3%80%91%E5%B0%8F%E5%85%90%E3%81%AE%E4%BE%BF%E7%A7%98%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
  3. 年齢による子どもの便秘・治療法 | 山と空こどもアレルギークリニック | 八王子市 | 小児科, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.yamasora-kids.com/constipation/
  4. Constipation in Children: Symptoms, Treatment and Resources, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.nationwidechildrens.org/conditions/constipation
  5. 遺糞症|重症便秘の病名や症状ごとの検査と治療, 8月 22, 2025にアクセス、 https://constipation.takano-hospital.jp/disease/encopresis
  6. 遺糞症 • 概念 臨床症状 • 病態、分類, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.med.nagasaki-u.ac.jp/peditrcs/group/ifun.pdf
  7. Conquer The First School Poo - Andrex, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.andrex.co.uk/conquer-the-school-poo
  8. Andrex: First School Poo • Ads of the World™ | Part of The Clio Network, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.adsoftheworld.com/campaigns/first-school-poo
  9. 小児の便秘 - さなだ医院, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.sanada-iin.com/sp/column/benpi.html
  10. 小児機能性消化管疾患の各論 Rome IV診断基準 小児・青年期の排便障害 (小児科診療 85巻9号) | 医書.jp, 8月 22, 2025にアクセス、 https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.34433/J00642.2023033776
  11. 夜尿症・便秘症 - はっちこどもクリニック, 8月 22, 2025にアクセス、 https://hachi-kids.jp/%E5%A4%9C%E5%B0%BF%E7%97%87%E3%83%BB%E4%BE%BF%E7%A7%98%E7%97%87
  12. 将来にも関わる問題で軽視は禁物 こどもの排尿や排便のトラブル - ドクターズ・ファイル, 8月 22, 2025にアクセス、 https://doctorsfile.jp/h/132956/mt/2/
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  15. 医療用医薬品 : モビコール, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00069352
  16. 慢性便秘症の治療薬 - 小金井つるかめクリニック, 8月 22, 2025にアクセス、 https://koganei.tsurukamekai.jp/blog/constipation_medicine.html
  17. Frequently Asked Questions About Movicol, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.movicol.com.au/faq/
  18. 小児慢性機能性便秘症に対するポリエチレングリコール製剤治療の検討 - J-Stage, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ikaihou/65/0/65_60/_article/-char/ja/
  19. Q. 便秘で通院中の2歳の娘。なかなかよくなりません (2023.2) - 赤ちゃん&子育てインフォ|インターネット相談室 Q&A, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.mcfh.or.jp/netsoudan/article.php?id=1793
  20. 子どもの便秘|【小児科】ユアクリニックお茶の水/御茶ノ水駅, 8月 22, 2025にアクセス、 https://ochanomizu.yourclinic.jp/constipation
  21. Andrex - Get Comfortable | FCB London, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.fcblondon.com/work/andrex/get-comfortable
  22. Kids Health Info : Constipation - The Royal Children’s Hospital, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.rch.org.au/kidsinfo/fact_sheets/constipation/
  23. Constipation in children - HSE.ie, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www2.hse.ie/conditions/constipation-children/
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  25. Understanding-Childhood-Constipation-1.pdf - Bladder & Bowel UK, 8月 22, 2025にアクセス、 https://www.bbuk.org.uk/wp-content/uploads/2020/12/Understanding-Childhood-Constipation-1.pdf

士業のネットワークを考える

イギリスのGP(家庭医)は「紹介をする医者」と認識されていると思います。患者を診察し、必要があれば専門医へとつなぎます。シンプルで、効率的な仕組みです。

日本もそれに近い制度を目指しています。大きな病院受診に紹介状が必要なのはそれを目指しているからです。しかし禁止されてはおらず、いまだにフリーアクセスで、患者はどの病院にも直接行けます。将来日本が英国型になるかどうかは未知数です。しかし外科、内科、眼科、耳鼻科……と職能ごとの専門性が発揮されるためには、紹介制度の活用は欠かせません。ただし、その多くは「機械的なもの」と見られがちです。世界中で家庭医の評価が高くないのも、この「誰にでもできる」という見方のせいかもしれません。

――ですが、本当にそれで良いのでしょうか。

「家庭医や総合医のスキルを高める!」という方向性でセミナーがよく開かれていますが、それを見るたびに頭の中に「?」が浮かびます。やはり、医師が「自己完結型の医療をしたい」と考えていると思われているのでしょうか。しかし、本当に必要なのは、自分の限界を知り、どの分野に優れた先生がいるのかを把握しておくことではないか。それは知識を増やすことと同じくらい重要なことではないでしょうか。

紹介状の文面には、医者同士の信頼や人となりがにじみます。なぜその検査を依頼するのか、なぜこの時期に紹介するのか。理由が明確であれば、次の医療は格段にスムーズになります。医療事故を予防するためにも、その内容は欠かせません。医師同士の信頼は、患者の安心感にも直結します。制度にのった流れであっても、「人のつながり」がそこには確かにあるのです。

私はそのつながりを「育てる」ことを、自分の仕事の一部だと考えています。患者さんご自身や、その家族の体験の情報収集も欠かせませんし、地域の医師会の会合に出るのも、電子カルテの研究会で司会をするのも、診療室で患者を診ることと地続きです。そこで築いた信頼の網の目が、ある日、誰かの助けになるかもしれません。

もちろん、思うように伝わらないこともあります。Googleマップの口コミで、当院に☆1つの評価がついているのを見ると、「振られてしまったな/自分が何をしたか」と胸が痛みます。もしかすると、その方に信頼していただこうと、しつこいくらい質問を重ねたのでしょうか、あるいは待たせすぎ、受診するための敷居が高すぎ、と怒っているのかもしれない。手を抜かずに診療している身には辛い評価ですが、それもまた現実です。信頼は一朝一夕に築けませんし、ときに拒まれることもあります。それでも積み重ねるしかないと、自分に言い聞かせています。(☆5つの評価は素直に嬉しい)

社会の格差が広がる今こそ、士業は単なる専門知識のみならず、互いにつながり合い、個人の利害を超えた協力を積み重ねる役割が重要となるでしょう。その網の目が広がるほど、救える人が増えると信じています。

8月23日のことですが、横浜市立大学医学部栄光会という集まりが横浜中華街で開かれ参加しました。昨年、Googleカレンダーで「前日にリマインドを設定する」方法を覚えて以来、こうした会合をうっかり忘れることがなくなりました。ありふれた技術ですが、粗忽者の私にはありがたい変化です。

会場では、7期の及能先生、14期の鬼頭先生他諸先輩方と同席する機会を得ました。なるほど少々遅刻していき先輩方と同席になる経験……ありますね!!普段は遠くから拝見するだけの先生方に直接ご挨拶できたのは、嬉しいことでした。

こちらは鉄板であろう「先週、クマが出まして」の話をさせていただきました。

「先週、クマが出ましてね」

「いやあ、今年は暑いでしょう」

「ハチが異常に多くて……そこで喜んだのがツキノワグマで」

勘の良い先生方なので、

「ハチミツか!」

とご唱和下さいました。こういう呼吸の合うやりとりには、心が和みます。大山名物「阿夫利嶺」――神奈川県銘菓でもある、地元のクルミとハチミツを使った菓子――を持参すれば、この話にもっと風味が加わったのに、と少し悔やみました。

思えば、私が横浜市大医学部に入学した頃、こうした会があったかどうかも覚えていません。もっとも及能先生の存在は昔から存じ上げていましたから、きっとあったのでしょう。単に私が若くて目が届かなかっただけで。

当時の医学部は1学年60名。栄光学園も180名と小さな学校です。地元とはいえ両方「同窓生」と呼べる人は同学年に数人。70年続いたとしても、総数は200名に満たないかもしれません。それでも40名以上の顔ぶれ、特に若い人々が多かったことが嬉しく、この繋がりは大切にしなければと思います。

高校3年、共通一次試験が終わった日、私は父に尋ねました。「どこに受験すべき?医学部に受験すると仮定」父は即答しました。「地元の横浜市大はどうか。人とのつながりは財産だから」

ああそうかと納得して現在に至ります。

診療室でも患者さんに直接「私は友人が多くて」と説明することがあります。少し不安が強い患者さんが対象になるかと思います。高校の友がいる。大学の友がいる。父の知己がいる。電子カルテ研究会で得た仲間がいる。地元の集まりも大切にしている。これは「良いネットワークビジネス」といえないでしょうか。このつながりが、多くの患者さんを救ってくれましたし、これからも変わらないでしょう。

「地方に医者がいない!」という問題の根底には、この職業において「孤独」が極めて劣悪な就労環境の原因になるという事実があります。孤立した医師が、疲弊し、力尽きていく様子をこれまでにも見てきました。

解決策を提供している団体もあります。「国境なき医師団」は、組織がかなり流動的であり、一つの場所に長くとどまることはほとんどありません。その仕組みがあるからこそ、過酷な現場でも活動が継続できるのだと思います。徳洲会もそうでしょう。メディアでは一つの場所で長く孤独に診療を行う医師が登場することが多いですし脚光も浴びます。しかしそれは特別な存在で、それをヒーローとして持ち上げ、若い人が目指すように誘導することには抵抗を感じるのです。

地域医療においてはそれらの団体に習い、流動性を高め、医師の孤立を防ぐ仕組みを最初に考えるべきなのかもしれません。つながりを固定の「縛り」にせず、支え合いながら動けるものにすること。医局を解体したまでは良いが、代替を提供できなかったことで生じた危機ではありますが、いろいろなネットワークを作り続けることも大切でしょう。「なんとか学会」をすぐに作っちゃう先生がいますが、それも大切な活動なんだなどと考えながら、帰路につきました。

医療従事者にとっての宗教とは

訃報で初めて知識を得る、ということはしばしばあります。田川建三さんもそうで、89歳で亡くなっていたことが報じられて初めてその人となりに触れました。キリスト教研究者という肩書きだけなら世に数多くいますが、略歴の中に「1970年に国際基督教大学から追放」とあれば調べずにはいられないでしょう。

大学紛争の時代背景を考えれば想像はつきますが、経緯は断片的な記述だけではわかりません。検索していくと論文「観念と現実のはざま――田川建三における大学闘争と宗教批判」(村山由美)が目にとまり、そこから事情を知ることができました。

簡単にまとめると田川は新約聖書研究を通じて「これは権力に抗い人権を獲得した、あるいはその萌芽を目覚めさせた人物(イエス)の記録だ」という事を感じていたらしく、決して「なんらかの教義で人々を縛り付けたりする意図はない」との信念を持つようになっていました。ところが当時の大学紛争で主流だったマルクス主義や宗教批判とは距離を置きつつ、抵抗、という部分にはシンパシーを感じたのでしょう。彼の文脈によりキリスト教会の権威構造を批判したために追放されるに至ったのです。結果だけ見れば不遇ですが、宗教を「人間の解放」として読み直そうとしたことに私は強い関心を覚えました。後年、ギリシャ語の素養を確信したのちに新約聖書の全訳と注釈を完遂したという経歴も、その真摯さを物語っています。

作品社|新約聖書 訳と註

この田川の姿勢に触れると、自分が好んで読んできたジョーゼフ・キャンベルを思い出します。比較神話学者として著名で、スター・ウォーズのストーリーに影響を与えた人物でもあります。キャンベルは多くのインタビューで「宗教とは、苦しみを含めて世界を肯定し、自分と自然、社会との関係を再発見するための道しるべである」と繰り返し語っています。宗教を人間が普遍的に考えてきた「意味の仕組み」として捉える点で、田川のイエス解釈と響き合うものがあります。

神話の力 ジョセフ・キャンベル & ビル・モイヤーズ

医療に携わる者にとって、宗教観をどう持つかは避けられない課題です。ウィリアム・オスラーはジョンズホプキンス大の授業で「良い医師は病気を診るが、最良の医師は病気を持つ患者を診る」と教えたと教え子によって記録されているそうです。これは直接宗教観を表したものではないにせよ、生命の尊厳を大事にしなさいという意味だと捉えられます。宗教は単なる信仰体系ではなく、病や死に意味を与える文化的資源でもあります。だからこそ私はキャンベル、ユング、レヴィ=ストロースといった著作を読み、各宗教の仕組みを理解しようとしてきました。患者の世界観をシミュレーションできることは、診療において大きな助けになるからです。

もっとも、現代医学では「誰かが定めた教義(これが現在世界を不幸にしていることには大変憂慮しています)」と「科学的な最適解」とが衝突する場面がしばしばあります。そこでは一方的にどちらかを押しつけるのではなく、歩み寄りが必要になります。議論はすでに多くの論文で深められていますが、結局はケース・バイ・ケースです。重要なのは患者も医療従事者も柔軟さを失わないこと。その柔軟さを支えるのに、田川やキャンベルの考え方は大いに役立つと私は感じています。

実際の外来でも、患者がどういう宗教を信仰しているかを尋ねることは少なくありませんし、さりげなく伺うようにもしています。宗教を持たないことは決しておかしなことではなく、困難を克服する方法が他に見出した場合もあれば、単に機会がなかっただけという場合もあるでしょう。とはいえ、人が社会と関わりつつ生を意味づける「道標」を持つことはやはり大切です。できれば誰もがそうした学びを続けた方がよい、と私は思っています。

ときに「あなた自身は宗教を持っていないのか」と尋ねられることもあります。その際には「私は医療従事者として多様な方々と話すので、特定の宗教を信じるより、いろいろな宗教を理解している方が便利なのです」と答えたり、あるいは「私にとってはキリスト教・仏教その他をまぜこぜにした世界観がちょうどよいのです」と言うこともあります。医学者は特定の宗教者であっても十分魅力的だと思いますが(例えばシュバイツァーがそうでしょう)、そうでない医師のほうが多いと思いますので、一般的な宗教理解を持つことは一層重要だと考えています。

漫画に学ぶ人生とは

高校3年生の春休み、肥厚性鼻炎の手術のために国際医療研究センターに入院することになった私に、母が漫画を買ってくれると約束してくれました。

2週間の入院だから10冊ぐらいあれば良いだろうか、繰り返し読めて、ずっと一生持っていても後悔しない作家……を考えたら、萩尾望都さんしか思いつかなかった記憶があります。たまたま発売されていた「全集」のような形のコミックを持ち込みました。有名な漫画家さんはたくさんおられるのでしょうが、ストーリーの複雑さとか、絵の魅力とか、普遍性とか、10年経っても20年経っても評価に耐えられるか、そんな事を考えたのでしょうね。その選択は正解で、その後何度も読み返しました。

萩尾望都さんはバンパイアが主人公である「ポーの一族」という作品が有名です。バンパイアは永遠の命を持つことになっていますがこの物語の設定では重要なことがあります。それは主人公が、偶然が重なったことで子どもの姿のままバンパイアとなり永遠の命を得てしまったことです。それにより「子どもの見た目が全く成長しない事実が人間社会では大きな疑念を生むため、せいぜい2−3年しか一つの場所に留まることは不可能だ」という結果が導かれます。これにより主人公たちは苦難の道を歩まねばならないのです。

同じ永遠の命を持っているという設定では聖悠紀さんの「超人ロック」があります。「ポーの一族」の主人公エドガーが「悪」だとすればロックは「善」に分類されると思うのですが、どちらも大きな力を持ち、それを否応なしに使うという点では共通しています。彼らはなるべく自分の力を使おうとしない、世界に干渉せずに過ごしたいと思いながらも動かざるを得なかったり、一人の力の限界をいつも再認識させられています。

彼らなりの倫理が展開され、その複雑さは作家の技量によるものだと思うのですが見事です。とても曖昧な判断をせざるを得なかったり、それに対して自省したり、あるいは自分を許したり、読むたびに学びがあります。核心部分を言語化せず、「絵で伝える」という部分が漫画の醍醐味であり、その分「読者の想像」が主体になります。それゆえ、アニメーションよりもある意味豊かな世界です。日本は漫画で色々な事を学ぶ事ができますが、イーブンな文化を享受できて、子供も大人も幸せだなあと思うのです。

この2作品で言うと、通常永遠のときを得た主人公が「時間が有限だからこそ価値がある」的な悟りを得るという一般論へ到達させようという意図を感じません。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説「不死の人」では、それほど長い時間をかけずに暇を持て余して「死にたい」と欲するようになります。アルベール・カミュの「シーシュポスの神話 」では、ギリシャ神話でシーシュポスが大きな岩を山頂まで押し上げるが頂上直前で必ず転げ落ちるという苦役を永久に課せられ罰せられている様子を描写し、永遠=苦労だという事を明示しています。

しかし、ボルヘスやカミュの考え方に救いがあるのだろうか、というと、もちろんそれは実存主義の一つの考え方だとは思いますが、一般人がそれを見て自分の不条理な人生に折り合いをつけて悟るかなと疑問に思ってしまいます。人生に苦しんでいる人々は、むしろ「現在が永遠」であるように感じており、そういう意味では永遠の中で狂わずに、なんとか折り合いをつけているエドガーやロックがリアルなのでは、と思うのです。

子どもたちが夢中になっている「鬼滅の刃」では登場人物の受けた教育により、台詞回しが異なる、というような細かな設定があることが話題になっていましたが、萩尾望都さんのインタビューを読むといかに徹底した取材で作品が作られてきたのかがわかり、今更感動しています。

女子美術大学オープンキャンパス萩尾望都先生特別講座 2025