風邪薬研究 / 検診の裾野 / ポロック / 空目空耳 / 会話のトレーニング
目次
風邪薬研究(成人)
はじめに
風邪薬の適切な選択は、一般市民にとっても医療従事者にとっても重要です。しかし、市販の風邪薬は多種多様であり、その成分や効果の違いを正確に把握することは容易ではありません。本研究では、市販されている風邪薬のランキングを調査し、その成分の比較・考察を行うことで、適切な風邪薬の選択についての指針を示します。
方法
- 「風邪薬 ランキング」で検索、オンラインストアのサイトを閲覧しました。
- いくつかのサイトを見て、上位に入っている商品名を記録しました。
- それとは別に人工知能にもランキングを作ってもらいました。こちらのほうが早かったです。
- パブロンゴールドA微粒 - 大正製薬
- パブロンゴールドA錠 - 大正製薬
- エスエスブロン錠 - エスエス製薬
- エスタック総合感冒 - エスエス製薬
- パブロンSゴールドW錠 - 大正製薬
- 新ルルAゴールドDXα - 第一三共ヘルスケア
- ロキソニンSプラス - 第一三共ヘルスケア
- コルゲンIB錠TXα - 興和新薬
- ベンザブロックL錠 - 武田薬品
- 龍角散ダイレクト スティック ピーチ - 龍角散
- 「商品名 kegg」で検索し、成分と量を抽出しました。
- 成分はメーカーにより書き方がまちまちなので、1回あたり、に変換しました。
- それぞれの成分に対して感想をコメントします。
結果
ランキングに入っているものを中心に書き出した結果を示します。
パブロンSゴールドW:
アンブロキソール塩酸塩 ( D01479 ) 15mg L-カルボシステイン ( D00175 ) 250mg ジヒドロコデインリン酸塩 ( D01481 ) 8mg アセトアミノフェン ( D00217 ) 300mg クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00665 ) 2.5mg リボフラビン ( D00050 ) 4mg
1回あたり使う量として、アンブロキソール(去痰)はOK、カルボシステインは半量、ジヒドロコデイン(10mgを使うことが多いと思うが、これは8mg)とクロルフェニラミンを一緒に使ったら眠くなりすぎ、アセトアミノフェンは中途半端な量、リボフラビン(ビタミンB2)は謎。高齢者不可。特に男性は尿閉になるのでは。3日以上使うと肺炎になりそう。
パブロン50
アセトアミノフェン ( D00217 ) 150mg グアヤコールスルホン酸カリウム ( D01610 ) 80mg(去痰) 麦門冬湯乾燥エキス ( D07030 ) 600mg(漢方の咳止め)
麦門冬湯の代わりに使えそう。高齢者でもOK。気軽に勧められるが、他のと間違えそうなのが難点か。
パブロンS
ブロムヘキシン塩酸塩 ( D01778 ) 4mg デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物 ( D00848 ) 16mg dl-メチルエフェドリン塩酸塩 ( D02109 ) 20mg アセトアミノフェン ( D00217 ) 300mg クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00665 ) 2.5mg アスコルビン酸カルシウム ( D02293 ) 83.3mg リボフラビン ( D00050 ) 4mg
あんまり勧められない風邪薬。中途半端な量。痰が粘稠になりそう。眠くなるのか興奮するのかわからない。
パブロンゴールドA
グアイフェネシン ( D00337 ) 60mg ジヒドロコデインリン酸塩 ( D01481 ) 8mg dl-メチルエフェドリン塩酸塩 ( D02109 ) 20mg アセトアミノフェン ( D00217 ) 300mg クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00665 ) 2.5mg 無水カフェイン ( D00528 ) 25mg リボフラビン ( D00050 ) 4mg
咳を止めたい気持ちはわかるが、もっとシンプルで良いだろう。高齢者不可。3日以上不可。口が渇きそう。
『パブロン飲んでました』と患者さんが言う場合、ほぼ100%パブロンゴールドAとかパブロンSとか違う薬であり、正確な薬名がわからないとその後の診療に非常に困ることになる。ブランディング、は健康の邪魔になることがあります。
エスエスブロン錠
ジヒドロコデインリン酸塩 ( D01481 ) 10mg dl-メチルエフェドリン塩酸塩 ( D02109 ) 17.7mg クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00665 ) 2.7mg 無水カフェイン ( D00528 ) 90mg
咳止めが主体だけれど、痰が切れなくなりそう。しっかり咳が止まりそうではある。
PL顆粒
サリチルアミド 270mg アセトアミノフェン 150mg 無水カフェイン 60mg プロメタジンメチレンジサリチル酸塩 13.5mg
サリチルアミド入ってるから、よほどの事(患者さんからの強い希望)がなかったら僕は出さない薬。これを好む患者さんは、カフェインの量が多いので治った感があるのかもしれない。
ベンザブロックL
イブプロフェン ( D00126 ) 150mg 塩酸プソイドエフェドリン ( D00485 ) 45mg クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00665 ) 2.5mg ジヒドロコデインリン酸塩 ( D01481 ) 6mg 無水カフェイン ( D00528 ) 25mg
解熱剤がイブプロフェン、というのが違うところ。
ベンザブロックLプレミアム
イブプロフェン ( D00126 ) 200mg トラネキサム酸 ( D01136 ) 250mg プソイドエフェドリン塩酸塩 ( D00485 ) 45mg d-クロルフェニラミンマレイン酸塩 ( D00668 ) 1.5mg ジヒドロコデインリン酸塩 ( D01481 ) 6mg L-カルボシステイン ( D00175 ) 250mg 無水カフェイン ( D00528 ) 25mg
とりあえずイブプロフェンをフルドーズ入れてみました感。
考察:自分は成分のどのあたりを見ているか
鎮痛解熱薬に何を使っているのか:アセトアミノフェンはしっかり効かせたければ1回あたり500mgは使う薬で、急性上気道炎の場合1日で最大1500mgまで使います。(それ以上医師の判断で使う事はある)頭痛も、のどの痛みも、関節痛もこれでいけるわけですが、総合感冒薬はすべて中途半端です。それよりはアセトアミノフェン単独を、使うべきタイミングでばしっと使ったほうが良いんじゃないかなと思いますが。
アスピリンとかイブプロフェン、あるいはロキソニンを好む人々もいて、抗炎症作用があるかどうかが違うわけですが、体質に特にあってるとか、アセトアミノフェン在庫不足以外の理由であえて使おうとは思わないです。インフルエンザにアスピリンは使いたくないですし。
鎮痛解熱剤の歴史は長く、こんな読み物があります。
今更第一世代の抗ヒスタミン薬が入ってるか:クロルフェニラミンなどの第一世代の抗ヒスタミン薬は、特に子供では使うべきではないとされています。けいれんリスクが上がる、SIDSの危険性などからです。大人でも過剰な眠気や尿閉、口渇、便秘、気道分泌低下などの副作用が起きます。これを入れる意味はない。花粉症の薬として売っている第二世代の抗ヒスタミン薬を使うのが無難だろうと思うのですが、公には適応がない、という理由で使ってないのが現状なのかなと思います。公知申請でなんとかしたら、OTCにスイッチ出来て、厚労省も嬉しい感じになるのでは?と考えますが。風邪ひいてだるいと言っている人の何割かはこの副作用だし、寝ちゃって水飲まなくて脱水になって悪化、というのは悪いパターンです。
カフェイン、エフェドリンなどの興奮剤:第一世代抗ヒスタミン薬や、咳止めの眠気を抑える目的で入ってるのでしょうが、そもそも第二世代にしておけば、気管支拡張が必要な人以外では不要じゃないか?がこの成分です。甲状腺疾患、高血圧、糖尿病気をつけろ、みたいな説明書になります。気管支拡張したければ普通にβ刺激薬とかのほうが使いやすい。葛根湯や小青竜湯に入っている麻黄も同じような成分ですが「気合い入れて風邪治す」みたいな作用も期待するなら、眠くなる成分とわざわざ一緒にしないでも、とは思うのでやっぱり総合感冒薬に入っている事はあまり良いことではないように思います。アメリカではエフェドリンは規制が厳しいです。ドーピングにひっかかることもあり注意が必要です。
咳止めの種類と量:たとえばデキストロメトルファンを医者は最大で1日120mg使いますが、そもそも種類の選択も量の調節も難しいのが咳止めです。コデインにもやはり抗コリン作用があって、第一世代抗ヒスタミン薬と同様に使いにくいです。どうしても止めたい時はこれを使うと思いますが、消化器内科の自分は今では使わなくなり、院内からもなくなりました。咳があんまりひどいときは専門の先生に、が正しいのかもしれないです。ちなみにひどい咳の時に海外では吸入の抗コリン薬を使うそうですが、日本では認められていない使い方です。
まとめ:製薬メーカー各社はどうすべきか
第二世代抗ヒスタミン薬を公知申請して感冒症候群にOTCで使えるようにした上で、解熱剤/咳止め/抗ヒスタミン薬/去痰薬を使った製品を作る。成分の割合を変えるとか、オーダーメイド製品を作ってアピールするなどして差別化。水分の補給や薬の服用を指示したり、医療機関に繋いでくれるアプリも良いと思う。
おまけ:自分自身の常備薬
アセトアミノフェン:市販ではタイレノール、アセトアミノフェン「クニヒロ」などがあるんですが、Amazonのが安くて驚きました。
第二世代抗ヒスタミン薬:眠くならない花粉症の薬を流用してます。市販されています。
カルボシステイン:痰が切れないなーという時使ってます。市販されています。
デキストロメトルファン:いちおう持っていて、たまに飲む程度です。市販されています。
葛根湯など漢方薬:多少使い分けはしています。市販されています。
サンスターガムレンタルリンスノンアルコールタイプ:最強のうがい
はちみつ:咳止めとして。
ヴィックスヴェポラッブ:以前は使っていましたが子供が大きくなったので買っていません。ユーカリ油とメントールが咳を止めてくれます。

検診は裾野を広げることが大事
大腸がんの若年齢化が話題になる中、グラフをプロットしていたら胃がんで亡くなる方の年齢分布がずいぶん変化していることに気づきました。
これは「がん情報サービス」からダウンロードした「胃がんによる死亡数」を表計算ソフトでプロットしたものですが、64歳以下の死亡数は非常に減っていることがわかります。2つの因子、ピロリ菌感染が少なくなった事と、ある程度早期発見出来ている事実が垣間みえます。
65歳未満の診断数はもっと多いのですが、3県のデータしかなく数字を出そうとすると案外大変でして断念しています。これも減少しています。
自分自身は「胃がんはものすごく減っている」と感じていますが、それでもまだ胃がんで亡くなる方がいらっしゃる事実からわかるのは、健康診断を受けるチャンスがない人々が相当数おられるという重要な事実です。
(85歳以上の高齢になると多疾患併存となるため、胃の検診の効果は限定されます。ある程度若いうちにピロリ除菌出来れば良いと思いますし、その年齢層の死亡数に関してほぼ変わらないことに関しては疑問には思いませんでした)
医者あるいはこの業界はAIなど、検診の精度を上げることに血道を上げますが、どこかにいる(そしてマイナンバーカードをうまく使えば使えば追跡可能な)「健康診断をミスした人々」にどうアプローチするか、を行政の方々と一緒に真面目に考えることが、第一歩なのだと思います。そのような地道な仕事をしたい。

ポロック
ジャクソン・ポロックの作品を何ヶ所かで見たことがありますが、なぜこれが芸術なのか理解することが出来ず、自分の資産を増やしたい人たちが欲しい(買えないが)「価値あるもの」ぐらいにしか捉えていなかった気がします。
しかしこれが論文になっていると話は別で、俄然理解してみようという気になります。
ジャクソン・ポロックとは
アメリカを代表する現代美術の画家。特に有名なのが「ドリップ・ペインティング」という技法で、大きなキャンバスにペンキを垂らしたり飛ばしたりして描く抽象画です。ポロック自身のものではなくとも似たようなものは鑑賞した事があるのでは。

この作品は、「No.1, 1950 (Lavender Mist) 」と言い、1947年から1950年にかけて到達した芸術的ブレイクスルーを象徴する作品とされています。キャンバスを床に置き、筆や棒を使って工業用塗料を滴らせたり飛び散らせ制作。この技法は、観る者が作品に「浸る」ような体験を生み出し、抽象表現主義を新たな段階へと押し上げたと称されます。(私は特に感慨を持たないのですが、少なくとも当時の人たちはこの表現から多くの刺激を得たのだろうと思います、追随する人もいっぱいいましたし)色彩の絡み合いが淡い紫がかった印象を与え、評論家のクレメント・グリーンバーグが「ラベンダー・ミスト」と名付けました。現在、ワシントンD.C.にあるナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されています。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)には「One: Number 31, 1950」のほか、1947年に制作された初期の作品「五尋の深み(Full Fathom Five)」が、グッゲンハイム美術館にはそれ以前の作品、「月の女(Woman with a Parasol)」:1941年や「ふたり(Two)」:1943-45年が収蔵されています。
パレイドリア、ロールシャッハ、あるいは無意識の暗号か
一般的に、彼の抽象画には「意味を持つパターンはない」と評され、何か見えたとしてもロールシャッハ的な反応あるいはパレイドリア(空目)だとされますが、それに反対した論文がこちらです。
彼は若い頃から精神疾患に悩んでおり、ユング派の精神科医であるヘンダーソンなる医師に治療を受けていました。
彼の治療は全く意味がなかっただけでなく、守秘義務を無視して治療のために彼と交換したスケッチを売ってしまうなど問題ある人物でしたが、そのスケッチの中にも、後の作品に登場する、猿、酒瓶などのモチーフが登場するようだ、と著者は気づきます。
ポロックがロールシャッハテストをよく受けたことは知られており、これが彼の「ドリップ・ペインティング」に影響を及ぼしたことは明らかです。
彼の病気では、特定の時期に目の前に幻覚的なイメージが出現したらしく(これが統合失調症と誤診された原因と思われる)、しかしそれをそのまま作品にすることも良しとせず、まるで隠すかのように塗料を散らした、とも述べています。そういう意図があるからこそ逆にパターンが生まれてしまう可能性は存在します。
彼の傑作は1947年〜1950年に集中していますが、これは彼に関わった精神科医エドウィンヘラーが処方したアレビアチン/フェノバルビタールなどが関与している可能性があります。残念なことにエドウィンヘラーはすぐに亡くなり、ポロックには以後これらの処方は行われませんでした。
「Troubled Queen(トラブルド・クイーン)」とは
1945年に描かれた作品で、ボストン美術館に収蔵されています。ポロックの画風が「具象」から「抽象」へ移り変わる“過渡期の代表作”といわれます。

見ると、キャンバス上に絵の具が引きずられていたり、垂らされたり、はね飛ばされたりした跡があり、後に開花する「ドリップ・ペインティング」の入り口ともいえる表現がすでに見られます。
この絵には「不穏な女王(troubled queen)」の姿が描かれていると言われています。中央上側の白っぽい菱形が女王で、その右下にある二つの目が兵士、というような解釈がなされます。
これを反時計回りに回転させると、確かにピカソのゲルニカ(下)に見えます。ポロックは1939年にゲルニカを見ており衝撃を受けていたのでした。もともとポロックは逆さにしたり横にしたりしてイメージを隠すことが多い画家でした。


時代的に第二次世界大戦の影響を強く反映していると考えられています。ポロック自身が兵役免除となった経緯があり、それによる彼の“心の不安”や“やるせなさ”も作品に表れている可能性があります。
ドリップ・ペインティングに隠された暗示とは
さて研究者は、ドリップ・ペインティングを創出するに至った芸術家ポロックの脳内アルゴリズムは、上に述べた彼の双極性障害と、幻覚など類稀な空間認識能力がその源なのではないか、と考えています。
1947−1950年の作品においても、同じモチーフ(酒瓶、猿、象など)が複数の作品に繰り返し登場している事実を根拠に、「作品にまったくイメージなどない」とする美術批評家の立場に対し、偶然ではあり得ない確率だと反論しています。意図的あるいは無意識的な暗号化(暗示)だと主張しているのです。
彼が「意図的に隠そうとした」と語っていることからも、作品を作りつつ何らかのイメージが目の前に浮かんでいただろうことは想像できます。彼の作品が人々の心を動かし、傑作として評価された背景には、彼の病気やその斬新な手法もあるかもしれませんが、生み出された一見ランダムなイメージに暗示を見、第二次対戦後の人々が共感した事が最大の理由なのかもしれません。
一方で美術評論家達がそれを否定した、というのも面白い話です。芸術作品の価値を上げるためにそのような評価をしたのでしょうか。
芸術家が生前認められることは素晴らしいと思う一方で、余りにも名声が大きい場合、ポルノとして我々は消費してしまうのではないか、という懸念を常に持ちます。1949年、Life誌にポロックはアメリカ現代美術の象徴として取り上げられ、芸術の中心が欧州から米国に移るきっかけを作ります。しかし1956年、飲酒運転によると言われる交通事故で亡くなるのです。
適切な治療が行われた結果としてこれらの作品が生まれた可能性に何かしらの安堵を覚える反面、たった2年しかその処方が行われなかった事実は残念でなりません。
空目空耳
人生は空目空耳だらけであって、それを楽しまねばなりません。聞き間違いから良いインタビューになることなどいくらでもあります。最近はAIが文字起こしでカルテを作ってくれるんですが、あんなものはもっと精度が低くなければなりません。正確に、なんて冗談じゃない。

エコーや内視鏡もパレイドリアは良くあって、トナカイが見えればクリスマスっぽい気分になります。
私自身はたくさんのランダムパターンから、何かそこに意味を見出した時に「Impressive」とマークをつけます。ポロックも作品を作っている時にどこかで「これで終わり」としなくちゃいけないわけで、全く何も意図がない、わけがない、とは思うのですね。
個人的には、パレイドリアがよく見える時は精神状態が良い時であり、それはポロックと似ているようで、とても親近感が湧きました。
もちろんタモリ倶楽部の空耳アワーも大好きです。
会話のその先を考えるトレーニング
強化学習とか、大規模言語モデルなど人工知能を鍛えるアルゴリズムを勉強すると、あまりにも自分の頭の中と似ているもので、最近はむしろ最新アルゴリズムを勉強して自分に取り入れようと画策しています。
最近ですとどうやって人工知能の勉強量を少なくするか、という論文が多くありますが、NVIDIAの株価に衝撃を与え、中国に個人情報が流れるのを懸念してその波があっという間に引きつつあるDeepSeekのトレーニングにおいてはひたすら数学の証明問題を解かせるらしいです。笑
まさに人間と同じ。証明問題に取り組むことの重要性は(それに取り組める人は少ないかもしれないですが)もっと強調されて良いのではないかと思います。それで思い出したのですが、私が大学1年のときの数学の先生は非常に広い領域の問題(高校程度の数学の証明問題)がイプシロン-デルタ論法でも証明できるよ、がコンセプトの授業をしており、全然理解できませんで、自分の知能の限界が良くわかった経験でしたが、あれ(極限、の考え方)を会話に応用できないのだろうか……。(数学好きの友人は面白がって聞いていました)
理系の人は会話が下手、みたいな思い込みが世の中にはあると思うのですがそれは実は間違いで、1つの事を話すのに10通りとか20通りの候補をあげた上で最適解を探しているから、レスポンスが悪い、と思われがちなんじゃないか、などと思います。
さて自分の場合は夢が強化学習になっているようです。他人との会話で「行われなかった架空のやりとり」をずっと考え続ける、を寝ている間にしているみたいなのです。
それとは別に「過学習」という、勉強しすぎると阿呆になると言う問題がありまして、その予防・治療のため自分は「古典を読む」をするのですが、現代の大規模言語モデルでもそれを予防するためのアルゴリズムは重要です。果たして今後大規模言語モデルがどう、増加するハルシネーション(嘘)を抑えるのかを興味津々で観察しようと思っています。
個人的には空目空耳同様、ハルシネーションこそ新たな発見につながるので好きなんですが。
ある日の会話
「あなたは毛布を何枚かけるの?」と外来で患者さんに唐突に聞いた理由は自分でも良くわかりません。子供の頃から、自分では思ってもいないことを、勝手に口が喋るのです。トゥレット症か?と思ったこともありますが、汚い言葉は出ずどちらかというと核心を突くような言葉が時々あるので、面白がっています。
「6枚」、と予想外の答えです。患者さんも「なぜその質問を?確かに自分は人とは違うぞ」という表情をしています。もちろんそれで会話が終わるわけがなく長くなりましたが、要約すると、
- 羽根布団、のようなものはズレるので使わなくなった。
- ひどく寒がりなので、結局この枚数になっている。
- 毛布をかけるだけじゃなくて部屋も暖かくしている。夫婦は別に寝るようになった。
- 下にも2枚敷いている。
そんな内容が数年前の日記にあり、書きかけのまま止まっていました。自分はきっとその後いろいろ考えたんだと思います。展開は無数に考えられますね。
当時どんな事を考えたのだろうか、と興味を持った自分は、その時点で考えそうな会話の選択肢を書き出してみました。教師なしの強化学習で、おそらく毎日の夢でこういう事を繰り返しているのだと思います。
さて前置きが長くなったのですが、人工知能の中でどういう思考がおこなわれているか、あるいは意識せずに人間はどんな事を考えているのかをシミュレーションしようと思って以下の文章を書いています。
会話のその先、を列挙する
- なぜ「毛布を何枚かけるの?」と聞いたのか再考する
- 突拍子もない質問がなぜその場で出たのか。毛布の話題が本当に自分の思考から出たものか、だとすればどの観察や記憶が影響を与えたのか。
- この方はちょっとめずらしいタイプの動脈瘤を見つけた人で、過去にはヘビースモーカーであり、動脈硬化に関して自分は警戒しているんだろう。特に睡眠時無呼吸症候群の有無をチェックしたかった可能性があるが、月並みな質問ではつまらない。もしかすると過去に妻とは別に寝ている事を記憶していた可能性があり、となると「息が止まってますか?いびきは?」的な質問は空振りになる可能性があり避けたかったのであろう。自分は空振りになる質問が好きじゃなく、結果としてこの質問になったのでは。
- その人の生活環境を想像する
- 「ひどく寒がり」「部屋を暖かく」「夫婦別々に寝ている」という情報から、どのような生活スタイルで、どんな環境に住んでいるのかを思い描く。
- 過去の喫煙の影響はどうか、肌の乾燥具合は、体格はどうか、別々に寝るのはそもそもいびきが原因か、毛布以外にどのような工夫をしているのか、それは血圧や動脈瘤に影響するか、そういう事を考える。
- 寒がり
- 「体質的な問題なのか」「年齢や健康状態によるものか」「運動量は」など、寒がりの理由、そしてそれが本人に与える影響はどうか。
- 別々に寝ている理由
- 寒がりなので部屋の温度を高くするのを妻が嫌がるのか、それとも別の要因があるのか(いびき、夜間尿、咳など健康上の問題、あるいは夫婦関係の変化)。
- 「6枚」という枚数の妥当性を考える
- 一般的に毛布を6枚も使う人は少ない。3−4枚を超えることは無意味ではないか。羽毛布団がずれやすいから、と言ってはいたが、ある程度以上の枚数に上乗せ効果があるのかどうかは疑問であって、その人独自の快適さの追求があるのかもしれない。たとえば極端に重いことを好むなど。また子どもの頃からの習慣が関係しているのではないか。
- 下に敷く毛布の効果を考える
- 単に「暖かさ」を求めているわけではなく、保湿、寝心地の向上など別の意味があるかもしれない。
- あるいは強い思い込みが起きるエピソードが過去にあった。
- 個人的には下に毛布を敷くのは好きです。
- 毛布の素材や質の違いについて考える
- 「6枚」という枚数は、もしかしたら薄い毛布を重ねているだけで、一般的な厚い布団1枚と変わらない可能性がある。
- 6枚+2枚の1枚1枚に歴史があるはずで、どのような経緯で手に入れたものか、値段は、重ねる順番にも意味があるのか、などは聞いておきたい。自分で買ったものではないかもしれないし、あんまり考えていないかもしれない。
- その人の基礎代謝を想像する
- 仮にその人の基礎代謝、あるいは放熱量が少なくて、多量の毛布が必要になる可能性はあるかもしれない。
- 部屋を暖かくすると言っても、それほどでもない可能性も考える。具体的な温度も聞いていないし。
- 様々な人の毛布の使い方を振り返る
- 「自分は何枚かけているだろう?」と自問し、自分の寝具環境との違いを比較する。
- 父の寝具は独特であり、それなりのこだわりがあったように思う。非常にユニークな発想をする人だった。
- 他の患者さんにも寝具は聞くが、粒度高く返答する人は少ない。割合無自覚な人が多い印象ではある。自分は思い出すことができるが。
- 「核心を突く言葉」として最初の質問の意味を深掘りする
- 「毛布を何枚かけるの?」という質問が、相手の生活スタイルや個性を引き出すきっかけになったかどうか。
- 核心的、というほど相手の本質を抉ってもいないから、大袈裟な表現ではある。ちょっと盛っていますね。
- このエピソードは、何らかの示唆を含むかどうか考える
- 動脈硬化性疾患があることから、できれば適当に寝返りをうってほしいという思いはあるが毛布6枚では寝返りは容易ではあるまい。一方で「寝返りのために毛布は減らすべき」などと患者に違う生活習慣を強いる事は憚られる。エビデンスもない話だし。
- 毛布の枚数の多さが、物理的な寒さ凌ぎだけでなく、重みによる心理的な安心感につながる可能性もあり、やはり患者さんの説明を聞きそのままふんふんと頷くのが良策かもしれない。
- 仰向けで寝ていると決めつけているが、そうではないかもしれない。
- 結局のところ、これを読んだとしても誰の役にも立たない。
- 少なくとも悩みがある人以外には「こうしたらいいよ」とアドバイスはせず、多様性を感じるにとどめたい。日記にそれ以上書いていない事実は、色々考えた上で、会話を続ける意味が薄いと感じて聞いて終わりにした可能性。
- 患者の「寝具事情」について興味を持つ
- 患者の寝具事情は、生活習慣を聞き出す上でのルーチンの質問の一つであって、プライマリ・ケアには必須。
- 入院中の寝具だってもっと自由で良いだろ、みたいな事は思ったりする。
- 介護度2になると、介護ベッドが借りられます。豆知識。
- この会話をエッセイの題材にする
- 唐突な質問から始まったこのエピソードを、もっと深く掘り下げて物語やエッセイに書けるのか。
- その方が6枚の毛布をのせる「!」な理由を考えられたらエッセイにはできるかもしれない。
- 例えば5枚以下だと変な夢を見るが、6枚だと変な夢を見なくなったとか、占い師に言われたとか、片付けるのが面倒なので、もらったものを重ねていったらいつのまにか6枚になったとか、寝返りが打てないほどの重さにしてやっと眠れるとか。適当な創作でいいのだろうけれど、たいてい実際聞いた話のほうが面白くて。
- 長期フォローをする
- 外来の醍醐味は、長期フォローが可能なこと
- 6枚、がある年のトレンドに過ぎず、翌年は別の良い毛布を見つけたので少なくなったとか、あるいは7枚になったとか。
- 多様な人がいるよね、だけではなく、年単位で人の言う事は変わるよね、そんな時間による多様性を学ぶことが出来るのも、外来ならではでしょう。
- この会話に意味があったとすれば、何かトラブルが将来起きた時にその状況把握がより詳細に可能になる事かもしれない。
- 寝具の発達について考察する
- 「毛布」なるもののはもともと日本の寝具にはないはずで、どう輸入されて定着したのか。(第二次対戦後だそうです。
- 一方旅館で毛布が提供されることはほとんどなく、それは伝統なのかもしれないが、ホテル(毛布)とあまりにも違うのは興味深い。調べると「旅館業における衛生等管理要領」に洋室の寝具は洋式とする、の記載が見られた。患者さんの部屋は洋室?和室?聞き忘れた。
- この人は旅行の時にどうするんだろう
- 夏に旅行するのは問題ないが、冬は困るのかも?
- 体験談を聞いておけば良かった。
- 季節の移り変わりには、1->2->3->>6と徐々に枚数が増えていくのだろうか。
- 寝具の衛生管理は?
- 寝具は天日干し、乾燥機などでその衛生を管理すると思うが6枚の場合には乾燥機がもっとも効率が良いのだろうか。
会話には終わりがあるし、忘れてしまうが、それで良い
列挙はしてみましたが、だからなんだ、という内容だからきっと日記も途中で終わっていたに違いありません。パーティーでの会話の練習ぐらいにはなるかもしれませんが。この患者さんが、次に外来に来たとき、私は当然毛布の話は忘れており、何年も経ってこの日記をたまたま見つけなかったら、たぶん一生忘れたままだったでしょう。
会話というものは元来そういうもので、時間の中に浮かんでは消える存在に過ぎません。最近は音声認識ですべての会話を拾って文字起こしをしてくれますが、内容のある会話をしていない事実に恥ずかしくなるばかりです。
ただ、医者という仕事をしている以上、どうしても「その言葉の背景には意味があるのでは」と考えがちですし、一言ももらさずに情報として活用しようとしたがります。でも、実は会話の多くに大きな意味はなく、条件反射的な言葉のやり取りに過ぎない、という認識でいたほうが誤診が減ることも経験的にわかっています。結局患者さんの表情のほうが正しかったりです。
他の職業と比較して圧倒的に長い時間を「方向性が特にない、他愛ない会話」に費やしている経験は貴重です。他のお医者さんと比較してもたぶんずっと長い時間、定型的とは言えない会話をします。
きれいにオチをつけられれば良いのですが、そうもいかずほとんどの会話には唐突に「終わり」がやってきて、考えた色々なことも忘れてしまうのは残念です。
しかしそれは意味がないのかというと、会話のその先を想像する余地が大きい分、自分にとっては知能のトレーニングになっていると感じています。その時一生懸命考えた事実は、自分にとっては意味があるのです。
物事を覚えるのが苦手でも、色々な方と話して、会話のその先、その先を想像しておくことは、知能の訓練になるんじゃなかろうか、と結論しておきます。
