ビートルートジュース / 内視鏡写真の著作権 / アルツハイマー病 / AIと独学 / 独学大全 / 言語と思考 / プレグネノロン
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ビートルートジュース
映画『ビートルジュース ビートルジュース』9/27(金) 日本公開!
無機硝酸塩がアスリートのパフォーマンスを上げるという報告が相次いでいます。オリンピックの選手たちも飲んでいるのでしょうか。今までは発癌とかメトヘモグロビン血症の可能性を指摘されていたのが変化してきたらしいと知りました。どうりで近年欧米のWebではビートルートジュース、ビートルートジュースって連呼してるわけで、彼ら大好きなんですね。日本だと青汁が同列か、しかしえぐみの元になる硝酸塩はカットしている青汁があったりして、それじゃあだめです。
さて、輸血をするときに、なぜ生血(なまけつ)は保存血よりも良いのか、その理由は一酸化窒素(NO)の含有量が違うからという話を聞いた事があって、とても納得したことがある。保存血にNOを付加する技術もあるようだ。NOは血流をすごく良くします。
関係ないけどビートルートジュースは赤いので「飲む輸血」なんて言われてます。これも関係ないですが、ビートルジュース・ビートルジュースは今秋公開される映画で、1988年ティム・バートン監督のビートルジュースの続編です。
無機硝酸塩を摂取するとNOを増やすみたいなんでして、循環がよくなってアスリートのパフォーマンスが上がるらしい。同時に血圧も下がるようですね。無機硝酸塩は、ハムなどの加工肉製品の防腐剤としても添加されており、亜硝酸塩とともに発癌やメトヘモグロビン血症のリスクを高めると考えられていたのですが、これに関しては証拠があまりない。
という事で、無機硝酸塩に関してポジティブに捉えましょうという雰囲気が昨今垣間見える。でもハムとか加工肉は他のネガティブ因子が多くてだめだぞ?ビートルートジュースで摂りましょう。売っているのだろうか。
内視鏡写真は著作権を侵害するか

内視鏡中に「あれが見えたこれが見えた」と喜んでいる内視鏡医を自分以外見たことがありませんが、地図シリーズ、浮世絵シリーズ、動物シリーズなど、いろんなパターンがあります。
メタ認知に重要なので、錯覚とか空目、空耳は非常に大切にしたい感覚なんだ、と主張しておきます。
今回は「著作権料を払えと言われそうなので名前が言えないシリーズ」です。実は以前にもありました。オリジナル版(1928年)は、米国の法律を改正させ延長に延長を繰り返していましたがとうとう2024年1月1日に著作権が切れています。が、こちらは1939年版のそれに近いので、まだあと11年ぐらいは著作権が保護されているのでは。

アルツハイマー病のバイオマーカーによる診断
アルツハイマー病の診断にP-タウ217が有望との論文が1年ほど前にあったのですが、続報が出まして、医師よりも高い精度で診断できるそうです。消化器の感染症も「感染症パネル」なる検査で網羅的に調べちゃうのがお金持ちの国のやり方で、どんな病気も問診なし医者なしで診断できる格差社会はどんどんやってきています。
日本では髄液検査でリン酸化タウを調べる事ができますがこれは治療法決定目的。血液検査で精度高く診断できれば、早く介入できるという事で朗報なんです。
別グループからはP-タウ181が有望との論文が出ています。こっちのほうがインパクトファクターが高いか。両論文ともにベータアミロイド40/42も同時に有効との結論です。
Alzheimer Disease Blood Biomarkers and Incident Dementia
認知症になることで何が問題かというと、脳機能が失われることではなくて、幸福度が下がるという事です。
どんな病気でも「失われる」という感覚はほとんどの人々にとって苦痛であってそれに折り合いをつけるには相応の時間がかかります。目を背けて治療をしない、例えば薬を飲まないという選択をする人々もたくさんいます。
早期診断の意味とは何かというと、治りやすいと言う事ではありません。考える時間や選択肢が豊かになるという事です。ときどきそれを「治してしまえば煩わしい事を考えなくて済む」「自分がしたいようにできる」という意味で使っておられる方がいて、それは違うんだという事を申し上げたいと思います。
人工知能は独学ができない
人工知能をトレーニングするには、例えば2台以上のネットワークを作って互いに競わせる方法があります。アルファGOはそうでした。大規模言語モデル(LLM)も「相手の言葉を予測する」を繰り返すと言う、碁とあまり変わらない方法でインデックスを作り上げていきます。
基本的な言語能力はそれで完成できるわけですが、問題はそこからです。知識のトレーニングを、chatGPTなどほとんどのLLMではインターネット経由で行っていますね。公開されているものは無料でパブリックだ、と決めつけての学習です。しかし現代において知識は有料で提供されるものが多く無料はごく一部にすぎない。幸い医学など科学に関しては、公的なリソースだけで最低限の知識は網羅可能ですが、一方で有料の知財は公的なリソースと比較するとはるかにたくさんあって、適切な学習ができないのが現実です。グレーな手法(有料のテキストをLLMに学習させ非公開で利用するなど)で利用している人々(お金持ち)は当然いるんでしょうけれど一般の人々に恩恵はなく、格差は広がるばかりです。
で、無料のテキストだけでLLMが頭が良くなる事は可能でしょうか。それは一般の人がLLMを安価に使うと言う意味で重要です。しかし新しいLLMが発表されてもわずか数ヶ月で知能低下することがしばしば報告されます。多数の人々が人工知能と会話した内容を再学習すると答えの精度が下がる。これは人間の知性がそもそも高くないということもありますし、再起的な学習はLLM向きではない事を示しているかもしれない。後者について研究した論文です。
人工知能が書いた文章をさらに人工知能が学習する、を繰り返し、無限に頭が良くなる事ができるのか。その結論は「知性は破綻する」でした。
今まではインターネット上の情報はたいていは人間が書いた文章でした。コピペばかりではありますが、それでもある程度の人間らしい常識を持っていたと考えられます。ところがが嘘八百を躊躇なく書いてしまうLLMによる文章で勉強したLLMはどんどんお馬鹿さんになっていく、というまあまあ当たり前の結果となってしまいました。
そして現在ではインターネット上にはLLMが書いた文章が溢れています。今までのようにネットの情報のみでトレーニングすると、LLMの知性は頭打ちになる可能性が現実的になっているのです。
本を読む事を封じられインターネットだけで学習をすると愚かになってしまう、という予想される現実を受け、人間についても「知識の不平等」について、きちんと考えねばならないと思っています。
独学大全
独学大全という本が発売されたのは4年前。著者は読書猿氏。売れた本だからご存じかもしれません。たぶん過去のレターでも勧めています。
独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法
読書猿ブログは更新を停止し久しく寂しい限りですが、私はかなり古くからの読者で、無意識に彼から影響を受けたかもしれません。彼のブログのスタイルは自分の文章の書き方と似ており、「複数の種本」→発想→サマライズあるいはミックス→文章化、だと認識しています。簡単なメタ認知と言えます。この本はその手法が整理・細分化され言語化された、という事だと理解し読みました。
自分は独学の人ですが、通常独学では「新たな知識を生み出す」とか「医療を進歩させる」ことは不可能です。本来ならキャリア形成したい場合には独学は避けた方がいいのです。
ただ、私はもともと独学が好きで、医者としてアカデミア(研究の道)に残らずさっさと父親を手伝い始めた時点で「キャリア形成は終了」と判断でき、積極的に他者と関わって勉強することがなくなったと思います。すると脳内に占める「アカデミック脳」が空きますから、その広場でいろいろな事に興味を持ってふわふわと知識として吸収し、遊んでいるわけです。
リスキリングという言葉があるように、新たな勉強をする機会が山ほどある中、わざわざ独学をする意味は何かという事ですが、これは先ほど言ったように「簡単なメタ認知の訓練」です。
著者は「何者にもなれなかった」感を持っているそうだけれど、それは「キャリア形成が思い通りには行かなかった」という事かも知れませんね。そういう場合にも独学は魂の洗濯にはなるはずです。この本が売れたというのはそういう事なんでしょう。
自分は自分で独学が得意で何十年、ほぼほぼ彼との手法は重なります。「大丈夫、やってた」とほっとしながら読んでいました。
これから何かになりたい若い人が読むべき本ではありません。繰り返しますが何かを達成したい場合独学には無理があります。誰かを巻き込んでいくとか、あえて偏った考えをしてみるなど、世の中にインパクトを残す人には何かしらの才能があり、そのまま進む方が良いでしょう。
そうではなく、一度立ち止まった人々、あるいはメタ認知が何か全くわからない人々には参考になります。そしてモチベーションが大切だとも書いてあり、それはその通りです。
繰り返し書かれているモチベーションの維持に関して自分は悩んだことはないのはありがたい事です。ルーチンを繰り返しがちな生活の中に、少しアクセントが欲しいかな?という理由で勉強をしているだけなのです。
エンサイクロペディアと銘打たれるだけあり、独学の手法がだいたい網羅されている印象。自分がフィーリングでやっていた事を言語化している事実には恐れ入る。勉強をするとき自分のやり方で大丈夫だっただろうか?知識をアウトプットしたいとき、上手い説明の仕方がないだろうか?と振り返るにもとても良い本です。
1960年代にカナダのAllen Toughは、成人における学習は8割ぐらいは独習だ、みたいな研究をしているそうです。それだけに手法が偏れば思想などに大きな影響を与えるわけで、独学の技法を知り、満遍なく学習することが大切なんだろうと思う。例えば書誌は重要だと説きます。自分も「知識を網羅したか」を確認するために、そういうテクニックを使います。自分の勉強した記録がいかに大切か、という部分にも多いに同意するが、多くの人が躓きそうな部分ではある。自分は自分のChrome履歴を記録しておいたりするし、Evernoteのコンテキスト機能を使ったりするが、自分なりの工夫がうまく回りだすと、成果が生まれやすい。10年以上いろいろ書き溜めていると、とにかく役立つ。
1ページ1秒ぐらいのスピードでパラパラめくっていき、通読してしまうのがお勧めの読み方です。だいたい800ページだから、800秒で一周読み終わる。詳しく読まずに積ん読しておいても、あとで助けが必要だという時には目的の情報は探し出せるはずです。
自分が日本の歴史上一番天才だと思っているのは本居宣長なんだけど、彼の言葉を読書猿氏が冒頭で引用していたから、紹介します。
「まあとにかく、考えるのを、止めないようにしよう」
啓発本みたいな内容は普段は避けています。自分で気づくに越したことはないし、その機会を奪いたくないからなんですが、30歳過ぎたけど勉強の仕方がわからない、みたいな場合にとりあえず手に取ってみたら気づきが得られるかもしれないのでどうぞ。
脳は言語では考えていない
脳は言語では考えていない、という認識を自分は持っており、それは記憶を言葉ではなくてイメージみたいなもので置き換えると脳の容量ってこんなに覚えられるかな?ぐらい覚えられたり、瞬間的に覚えたものは画像であってそれをいちいち言語に翻訳して言葉に発しているので、自明のものと考えています。
ただし記憶を脳の外に保管したい時もあります。人間が成長していくのに、記憶だけに頼るよりは、脳の外で保管しておきそれを活かしつつ積み上げていく方が効率が良いので。つまり自分にとっての言語とは脳外への記憶保管装置です。それは結局次の世代に影響を及ぼします。言葉の発明で人間は変化(あえて進化とは書かない)を加速させたと言えるでしょう。
言語化できると得ではある
病気になったとき、その状態の記憶を脳内のみに貯めておくと、解決しないことがあまりにも多く、苦しいしとても悶々としてしまう。一度外に出す事ができると良いのではないか、というのが医者30年やっての感想です。
入院中であればナースが言語化を代替してくれますね。非常にありがたい存在です。目の前で表現できず困っている人(あるいはその家族)を観察してその感情や苦しみの言語化を助けることはナースのみならずすべての医療従事者の仕事であるように思います。
カルテや看護記録を通して医療従事者は患者の辛さを言語化しようと常に試みており、それが上手くいき、共有された時に癒されていくように見える事がしばしばあるのでそう思うわけです。
外来ではそれをある程度患者が自分で行わねばならない。本をたくさん読んできた人はそれが上手いかもしれませんが、苦手意識を持っている人も多いと思う。しかし無理だと思わずにトライして欲しい。経過をノートに書いてみたら、と提案するのはそれが癒しに直結するからです。
病気のときの感情や苦しみに限らず、解決が難しい状況はいくらでもあって、それを脳内のみで解決する事は難しい。その困難を言語は補完してくれます。もちろん得意な表現が音楽であったり絵画であったり映像であったりする人もいるでしょうから、各々好きな方法で脳外に保管すれば良いのです。
言語化できなくても脳の外に保管したい
急には言語化なんて無理、という患者さんたちに外来でどういう事を勧めただろうか、と思い出してみるとこんな感じです。
- 1日1枚だけでも写真を撮ってみる。言語化できないまでも、脳の外に何かを保管するのは良い事。
- 血圧や体重など健康の記録をつける。これも脳の外に保管する実践。
- SNSでの簡単なやり取りもその時点での情緒が記録されるので良い。
- ブラウザの履歴もその人の記録です。広告に利用されるだけ、なんて勿体無い。
- Google Mapsの履歴。
- お薬手帳や検査結果からプロファイリングができることを示す。
- 診察室内での会話を自分がカルテにどうまとめているか参考にしてもらう。
- マイナンバーカードの中にいろいろな情報があることをお見せする。
脳外に保管したものは共有できる
これが今回言いたい事です。どんな方法であれ、脳の外にいろいろな思い、情報を保管することができ、自ら利用することに意味があるのみならず、他の人と共有できることも大きな魅力なんです。
プレグネノロン
世の中には「心因性が関わっているだろうと思われる疼痛」は結構多いものだけれど、それに対してシンプルにプレグネノロンを投与した群で疼痛コントロールがしやすかったという研究が2019年にありその後の報告を期待していましたが、その後追試がありません。アメリカの在郷軍人病院の先生が、退役軍人のPTSDの患者を対象に投与、とのこと。 American Pain Society (APS) 2019: Abstract 274. Presented April 5, 2019
Novel, ‘Non-Habit Forming’ Medication May Reduce Low Back Pain
説明もせずプレグネノロン、と書きましたけれど、内因性ステロイドを作る材料がプレグネノロンです。
これがあれば自分自身で勝手にステロイドを作るだろう、という感じですね。栄養不足や薬でコレステロールが低い患者さんで不足しそうではあります。しばしば癌の治療中など消耗性疾患で、プレドニンを1mgだけ投与しただけで患者さん復活、みたいな経験するわけですが、プレドニンを使うよりはやりやすそうです。
同じ2019年、産後うつ病の薬として新しいGABAA受容体の刺激薬、ブレキサノロン静注(200万円します)が米国FDAで認可されて注目されました。(2023年には経口薬ズラノロンが発売されていて使いやすく主流にはならないけれど)実はプレグネノロンはブレキサノロンの前駆体でもある。
ワオって感じします?僕はしました。
プレグネノロンは市販されているサプリメントでもあるので、こういう効果があるよと注目されると、例えば便移植がそうであったように、アメリカは特に、一般の方がどんどんどんどん自分で取り組む傾向があります。そして便移植がそうであったように、素人さんがいろいろやってしまった場合のやばい副作用についてわかるかもしれない、そう期待していたけれど5年経って全然注目もされていない。
したがって「OTCのプレグネノロンを使うこと」は、米国市民はみんな忘れてしまっているのだろうな、とは思います。なので備忘録として書きました。
ブレキサノロンがそうであるように、プレグネノロンもGABAA受容体の刺激薬(有名なのは依存が簡単に生じるベンゾジアゼピンです)のように依存が起きないらしい、というのが肝です。現在は麻薬中毒からの脳保護、という文脈で注目はされているようです。日本からはデヒドロエピアンドロステロン(これは男性更年期に安全に使えるんじゃないかと思っているサプリメント)同様に輸入できないサプリメントです。(2019年1月1日~)
・脳機能の向上等を標ぼうする医薬品等を個人輸入する場合の取扱いについて(◆平成30年11月26日薬生監麻発第1126003号)
自分は大学院時代副腎のことも勉強していて、ステロイドにはもっと未来があると期待していただけに規制は残念なことではあります。サプリメントとしての使用が先行した場合、創薬はうまくいかないことがかなり多いです。