花粉-アレルギー症候群 / グループセラピー / 人形 / 抗マラリア薬がPCOSの治療薬として使えるか
目次
交差抗原性
春になると、小さな子供を持つ母親にじんましんが出ることがあります。その原因は子供から感染した病原菌に対する免疫反応が皮膚を刺激するからと理解しています。じんましんが出ることで有名なマイコプラズマ肺炎では7%にじんましんが出現します。マイコプラズマaP1接着分子と人間のケラチノサイトが似ているから、という仮説が立てられています。
お互い似ている抗原間で免疫反応が起きてしまう事を「交差抗原性」などと称しています。有名なのは、ハンノキアレルギーです。ハンノキの花粉症がある人はリンゴ・モモ・サクランボ・ビワなどのバラ科植物で口腔内アレルギー症候群が起きやすいとされています。以下の事故もそれが原因ではないかとの推測はあります。
給食のびわでアレルギーか 児童ら126人症状訴え 山梨 富士吉田 | NHK
小学校で児童11人が救急搬送 ビワアレルギーか | 横浜市都筑区の【深見耳鼻咽喉科】
押さえておきたい大人の食物アレルギーの基本知識(永田 真) | | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院
人間の免疫グロブリンがいくら多様な抗原を認識できるとはいえ、特異性には限界があり交差はしょっちゅうおきるものだ、と考えて差し支えないと思いますし、自分がアレルギー症状を診察する時は常に意識しています。そしてこれはIgEに限った話ではなくて、あらゆる自己免疫疾患や癌でも同様の病態が起きていると考えてその症状を理解しようとします。
グループセラピー
米国のドラマで、アルコール依存体験や薬物依存体験の治療としてグループセラピーが行われる場面がしばしば登場し、「日本であるのかな」と思いつつぼーっと眺めています。あんなに演技的でいられることって、日本人であり得るのかなぁ。でもトレーニングで可能でしょうし、結構楽になりそうでもある。

糖尿病などの生活習慣病では1対1(個別療法)でなく1対多の外来形式(集団療法)が効果的とされ、日本以外の国では行われています。生活習慣病に限らずあらゆる病気で、みなさん個人情報を気になさらなければ、そのコミュニケーションを公開する事、共有する事で経験値を増やせる。相当意味があることだと思います。医療関係者だけが経験を積んでいるのが現状。
米国糖尿病学会誌には、糖尿病患者に対する集団療法の効果は若者だけでなく行動変容が起きにくい高齢者であっても有効だったとの論文があります。集団療法は個別療法と比べて費用対効果が高く、行動変容を促進できる。しかし、どのようなグループを作るか、リーダーを誰にするか、効果はどう評価するかなど複雑な問題があるため、メタ解析できるほどのエビデンスがありません。日本は皆保険であるがゆえに遅れが目立つ、という感じでしょうか。
私がひところ慶応SFCでお手伝いしていたときに、たいていはグループワークで授業が行われていましたが、これにもグループセラピーと同様の効果があります。すなわち以下のような特徴です。
- 情報提供・教育の効率化
- 対象とする問題(グループセラピーでは依存症、精神疾患、対人関係など、グループワークでは個別課題)について知識を得る際、他人の反応を見つつ吸収できる
- 講師役からの情報提供の効率が上がる。多人数と比較するとはるかに落ちこぼれが少ない
- 認知の修正
- 非合理的な信念、役割期待、対処スキルなどは見直す機会になる
- 認知の歪みを特定し、適応的な考え方を身につけるチャンスが訪れる
- 行動の変容
- 講師以外の人々からのアクションもあるため、問題行動のモニタリングと代替行動の実践が多様となる
- 対人スキルの習得
- アサーティブなコミュニケーション、対人関係スキルの良い演習となる。失敗を繰り返すことができ、フィードバックを受け、振る舞いの修正が可能である
- 実況構造化体験
- ロールプレイなどを通じて状況の再現と新しい対処を体験する。また自分が体験していない未来を見る事ができる
まとめると、グループセラピーは依存症や生活習慣病など社会的問題に対して効果的であることが認識され、すでに応用されています。
これに似た方法論を個人の慢性疼痛治療に応用してみたという論文があります。ベテラン(退役軍人)の人々が対象。通常慢性疼痛治療には、集学的な治療の一環としてCBT(認知行動療法)が行われますのでそれとの比較です。
認知行動療法との比較

Emotional Awareness and Expression Therapy vs CBT for Chronic Pain
この心理療法を筆者らはグループセラピーとは呼ばず、「感情認識と表現療法(EAET)」と呼んでいます。感情表出までしか行わない(認知の修正、行動変容やロールプレイなどをしない)のが特徴のようですが、従来の認知行動療法(CBT)との主な違いは以下の通りです。
- アプローチの違い
- CBTは痛みを受け入れて上手に付き合う方法を学ぶことを目的とします
- EAETは過去のストレスや心的外傷に起因する抑えつつある感情を直視し、表出することで痛みを和らげることを目的とします
- 治療の焦点
- CBTは身体的リラクセーション、認知の書き換え、活動のペーシングなどに焦点を当てます
- EAETは感情への気づき、感情の表出、感情の解放に焦点を当てます
- 痛み改善の機序
- CBTは痛みそのものを和らげるのではなく、痛みとうまく付き合う術を身につけます
- EAETは脳の痛み知覚に影響を与える抑圧された感情を解放することで、実際の痛みを軽減させます
つまり、CBTが痛みの受容と対処に重きを置くのに対し、EAETは過去の心的外傷に起因する感情の解放を通じて痛みそのものを和らげることを目指す点が大きな違いだと言えます。告白、に近い。すると結果に大きな違いがありました。
EAETでは63%が30%以上、35%が50%以上の臨床的に有意な痛み減少を達成したのに対し、CBTではそれぞれ17%、7%でした。ベースラインのうつ、不安、PTSDスコアが高いほど、EAETにおける痛み減少効果が大きくなる一方、CBTではそうした影響は見られませんでした。
退役軍人たちはことに痛み体験を共有している集団ですので、感情の表出による癒しの効果が大きい可能性がありますが、注目すべき結果ではありますね。
痛みを第三者である他人に告白しあう事で、軽減できる。
実際の方法
日本ではグループでのCBT(集団認知行動療法)が心療内科で少し行われているようですが一般的ではありません。しかし海外では過敏性腸症候群(IBS)などの機能性疾患にも取り入れられています。北欧の論文では、4−6人の小グループでCBTを行うと効果が高かった、とされます。
退役軍人の論文では、介入は1回の個別セッション(90分)と8回の小グループセッション(各90分)で構成されています。正確な間隔の記載はないですが、他のグループセッション同様週1回の頻度で行われたと推測されます。
なぜこんなことを書くのか
グループセラピーにせよ、グループCBTにせよ、EAETにせよ、日本には根付いていない治療法ですが、とても大切な活動です。宗教が活躍しにくい現在、多くの人々が感じている孤独感を癒すかもしれません。日本の個人主義的な価値観およびプライバシー意識の高さがハードルになって制度化や実現はなかなか難しいものの、例えば擬似的な集団CBTをAIで実現、みたいなことやVRを使って実現など代替手段はあるでしょうし、効率という点でも必ず注目される日が来るでしょう。
医者をやっていると、人々の認知の修正が必要だと感じる事が多いですし、行動変容が起きてほしいとも思います。行動変容を目的としてマーケティングの手法や心理学を勉強し、それを応用して普段の会話をしていますが、それが効果的でないと感じることが多いのも事実です。それに対し、以前から考えている一つの解決策として書いた次第。
人形
親戚のご婦人がときたまお人形を作り、誰か子供がプレゼントとしてもらう。皆が大変な貴重品扱いをしていましたが、それほどすごいもの?という感情がありました。私はもらったことがありません。……どうもあれは自由学園の人形だったのではないか(違うかもしれません)と思ったのはインターネットが普及してからなんですが、出来はともかく人形に対しては特別な感慨がありますね。あの感情はなにか。
我々のそれはアニミズム(万物に魂が宿ると考える原始的な思想)に由来する可能性があります。が、ゆえに一部の宗教では人間を象ることを禁じています。一方東洋では比較的気軽に像を作りますし、ブランクーシにも影響を与えたわけです。
ヨーロッパでは14世紀に、アニミズム的な発想ではなく、ファッションの流行を担うという意味での人形(パンドラ)が普及していましたが、19世紀の印刷革命で下火に。それに代わって1855年のパリ万博で日本の市松人形が展示されて玩具としての人形が再認識された、という事で良いのでしょうか。
玩具としての人形はしかし安価な工業製品に席巻されます。プラスチック製品で成長した世界で有数の玩具メーカー・マテルにはバービー、ハズブロにはG.I.ジョーという製品があります。今はフィギュア、アクスタもこの範疇でしょうか。だんだん細分化個性化多様化しており市場規模としてはあまり拡大がない印象。
人形のコレクションとして日本では奈良県立美術館設立の元になった吉川コレクション(観方コレクション)が有名で、その分類は9種類で製法によるもの。市松人形、という分類はないのですが、衣裳人形の一つとして認識できます。江戸時代に普及した着せ替え人形です。
アニミズムと書きましたが、人形劇の発達という点で捉えるとどうでしょうか。アニメーション、に当然つながるわけですけれども。人形劇の歴史を一番書いてくれているのはドイツ語圏のWikipediaです。ドイツ語圏で盛んだったから。手人形はペルシャ。マリオネットは古代ギリシャ。アリストテレスやプラトンの著書にも言及があります。16世紀にはトルコやイタリアで移動人形劇が登場し、19世紀に一般的になったとのこと。
日本の文楽は17世紀の登場で、優れた役者が輩出しにくく大衆芸能としては歌舞伎に取って代わられましたが脈々と受け継がれて現在はユネスコ無形文化遺産。作家としては近松門左衛門。
ちなみにユネスコ無形文化遺産に登場する人形関連の登録としては「文楽」のほか、「シチリアの人形劇」「インドネシア・ワヤン人形劇」「中国の影絵人形芝居」「福建の操り人形師の次世代訓練の戦略(劇そのものではなく)」「マリ・マルカラの仮面と人形表現」「スロバキアとチェコの人形劇」「ポルトガル・エストレモスの土人形工芸」「エジプト・伝統的な人形劇」「スリランカの伝統的糸操り人形劇、ルーカダ・ナーチャ」「オルテケ、カザフスタンの伝統芸能:舞踊、人形劇と音楽」があります。
ベトナムには11世紀に水上人形劇が登場し、絶えていましたが20世紀に復活。インドはじめアジア諸国にはバラエティに富んだ人形劇文化が存在します。
ライブで見せる人形劇は人々の意識に染み込みやすい。しかし20世紀前半、戦争にも利用されます。(まさに宗教が懸念したことなのでしょうが)子供は洗脳しやすいから、という事はあるのでしょう。戦争に加担した/しない、の議論を通過し、日本では戦後という文脈の中テレビで人形劇を放送しようと言うことになる。それが飯沢匡らによるNHK「ブーフーウー」。
遡って1953年、飯沢匡は「ヤンボウニンボウトンボウ」のラジオ放送に関わりましたが、その翌年から人形を使ったアニメーションに没頭します。川本喜八郎さんと多くの人形絵本を作っています。その流れで登場したのが1960年の「ブーフーウー」で、これはチェコのイジー・トルンカに影響されたのだ、と飯沢は著書で書いています。トルンカは人形アニメの先鞭をつけたチェコの作家で、のちに川本さんも弟子入りし、帰ってからはご自分の世界観で人形作品を作っていく。
ブーフーウーは人形と着ぐるみの融合でしたが、ヤンボウニンボウトンボウの1953年(テレビ放送開始)にはすでに純粋な人形劇が放送されています。「玉藻前」です。
人形劇が子供向けだ、という前提を覆したのは、1970年代の「新八犬伝」ではないか。文楽回帰とも言えるのですが、辻村ジュサブロー(寿三郎)さんの人形が話題になりました。人形といえば顔の印象が記憶に強く残りますが、辻村寿三郎さんの人形は肌感が独特で、それがますます「生きている感」を感じさせます。縮緬(ちりめん)を使うのは辻村さん独自の発想とのこと。
縮緬の独特の凹凸のある模様は特徴的な模様は『シボ』と呼ばれます。糸に強い撚り(より)をかけることでゴムのような弾力性を持たせ、この特殊な糸を縦糸と横糸に使って織ると、布が自然に縮んでシボが出現するのです。
この模様は肌や粘膜を拡大したときとよく似ていて、自分にとっては特に親近感が湧きやすいこともあるのでしょうが、先日東京芸術大学大学美術館で行われていた大吉原展に辻村寿三郎さんの作ったジオラマが展示されていて、東京芸大所蔵の高橋由一『花魁』と合わせて、リアルさを漂わせていました。
大吉原展を詳細にレポート。「吉原」という場所で何が生まれ残されてきたのか | 藝大アートプラザ
令和6年4月からNHK・Eテレで、川本喜八郎さん、佐藤三郎さん(双方辻村寿三郎さんと人形作家グループ「グラップ」で活動もした)の関わった人形劇「平家物語」の再放送が始まっています。日本には人形に関する文化が深く息づいていて、それを振り返ることもできる良い機会ではないかと思います。
『秋山邦晴の日本映画音楽史を形作る人々/アニメーション映画の系譜』をめぐる対談【アニメーション篇 第1回(全3回)】|DU BOOKS
人形歴史スペクタクル「平家物語」衣装展が開催されています―長野県・飯田市川本喜八郎人形美術館― | あったかキッズ
抗マラリア薬がPCOSの治療薬として使えるか
2015年に大村智先生がイベルメクチンの発見でノーベル医学生理学賞を受賞しましたが、同時受賞したのが抗マラリア薬アルテミシニンンを発見したトゥ・ヨウヨウ氏です。
鉄がある場所で活性酸素を生じさせる事で赤血球にいるマラリア原虫を殺すというトリッキーなお薬です。こういう発想、人間やAIには絶対に出来ない。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは、女性の一般的な内分泌障害の一つで、次のような症状が特徴です:多嚢胞性卵巣、男性ホルモン(アンドロゲン)による体毛の増加、脱毛、ニキビ、月経異常、不妊、体重増加。
Polycystic ovary syndrome could be treated with a malaria drug
小規模の研究ですが、アルテルミシニンはテストステロンレベルを低下させ、インスリン抵抗性を改善させたとのことです。既に安全性が確認され、特定の疾患に対して承認・使用されている既存薬について、新たな治療効果を見出し、別の疾患治療に応用する戦略をドラッグリポジショニング(別名:薬剤再配置)と呼びます。
しかし簡単に試すことが出来てしまうことで、正式な治験という手順を経ずに投薬されてしまうことが多く、臨床データに雑多なノイズが混入しやすい問題があります。イベルメクチンが結局はSARS-CoV2にはあまり効果がないらしい、とわかるまでに多額のコストがかかってしまいました。現在ではサイケデリックドラッグが精神病の治療に使えるか、という議論がホットですけれど、これも同じ運命を現在のところは辿りつつあるのが残念です。
自分的には鉄=インスリン抵抗性であり、自分が大学院時代に研究した領域でして、アルテミシニンンを勉強することは、脂肪肝などの理解につながる可能性があると思った。それであるがゆえに今回目についてここに書いた次第です。あまり深い意味はありません。