言語化は大切 / 効率的な勉強法 / 人間の尻尾の消失の遺伝学的説明 / ライブ演奏が扁桃体を良い意味で刺激する / 広島大学の片山春菜助教 / 論文を読む手法 / 腸内細菌はコレステロールをコントロールする
目次
悩みを言語化出来たら苦労はしない
悩みがある人はそれを言語化できたら解決すると思うんだけど、それが出来たら苦労はしないという、元も子もない話を書きます。それでも人間は、言語化の練習をしたほうが良いという気持ちを込めて。
ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』っていう小説をご存知でしょうか。前回のレターにもありました。1920年代の小説で、アイルランドの首都ダブリンのとある1日の出来事を、それこそ秒単位で詳細に書いてあるらしい。言葉に趣向を凝らしていて、20世紀最高の小説と言われています。描写は排便の瞬間にまで及ぶらしく(勝手な想像)、読んでみたいのですが、面倒くさいという気持ちもあります。
プルーストの『失われた時を求めて』っていう小説をご存知でしょうか。同じく1920年代に成立している、ただしプルーストが原稿を見直すたびに書き直しを繰り返し途中で死んでしまった関係で、完全な形では完結していない小説。しかし著者が読み直すたびに改稿を繰り返すのはわかる。この小説は心理描写が多いとされますが心の中の捉え方は時が経つとより俯瞰的になり流動的になるから。だから永久に書き終わるわけがない小説です。半生の心の内面をめちゃくちゃ詳細に書いていて、要するにプルーストの内面なのですが、世界で一番長いとされ、ユリシーズ同様20世紀最高の小説と言われています。伝聞調で書いているのは読んでいないからです。新訳に高遠さんという方が挑戦しており、自分はとある自分のブログと彼のブログの内容がある時似ている事に気づいて以来、彼をTwitterでフォローしてはいます。なかなか高遠訳も大変そう。まだ途中ですが絶賛されています。完結すると良いですね。
高遠弘美さん―産経新聞夕刊(大阪版)連載 第12回「プルーストと暮らす日々」 - 光文社古典新訳文庫
日々の言語化(要するに日記)を突き詰めていくと、自分の周りの描写と、中身の描写をどう行うかということになるわけですが、20世紀初頭の2名の小説家が、この両方に関して、言葉を尽くしてやりきっているわけです。だから最高とされているんですね。これを読了した人なら、どんな心の変化があっても言語化は可能なんじゃないか、そう考えるわけです。
古典(長年生き残ってきた本)や名著には、網羅しよう、みたいな心意気がある気がします。多面的。ただ読むのが疲れるので積読になりがち。そこで読書が好きな友人が少数でもいると助かりますね。
人間の脳みそは文字で考えてはたぶんいないわけですが、最終的には文字で整理するのが一番情報の圧縮は可能であるので、自分の気持を文字として記録する努力はしたほうが良いと思うわけです。それは国語の勉強であったり、英語の勉強であったり、小説を読むことだったりします。
もちろんそれが出来れば苦労しないわけで、悩んだ時に助けてくれるのが教育者であったり、カウンセラーであったり、医者であったりするわけですけれど。
ところでプルーストは医者が嫌いらしい。小説に登場するコタール医師は無趣味な俗物として描かれています。そして「医者の診断なぞ、たいていは間違っていることにそのうち気づく」と書きます。でもそこで終わらないのがプルーストが評価される所以でしょう。「医者が行う無数の間違いの中に、たまに真実も紛れ込む。だから医者を馬鹿にするのも間違いだ」と。コタール医師には、知らなかった言葉を愚直に言葉を辞書で引きすぐに使ってみる癖があり、愚直なりに興味深い人、として描写されています。
人間には多面性があります。しかしそれをなるべく見せないほうが成功するのが政治の世界をはじめ社会というものらしく、残念ながら、芸術の世界ですらそういう傾向があり、わかりやすいロールモデルというものは存在しないように思います。だからこそみなさんは複雑な自分(それは良い事なんだけど)に戸惑ってしまうのではありませんか?
ところで以前、導師のような人がどういう事をいうのか興味があってお金を払って相談しに行った事があります。経済人のコーチのような事をするらしい。霊感?で相手をみるそうで、私に「あなたには9の内面がある、大したものだ」と言いました。そしてその人自身は26の内面があるんだそうです。俺の方が凄いぞ、とマウント取ってきてんのかな?と思ったんですが、少なくとも精神の多面を多面としてそのままに出来る程度、心の中を理解しているという事なのですから、人の精神を支える資格はあるのだろうなと理解しました。 またエリートや経済人、政治家、あるいは芸能人は、多面のうちの一つあるいは自分に有利な側面だけを庶民に見せ、他は隠さなければならない人生なのだろうと思います。むろんその矛盾で苦しまない資質を持っている人も多いのでしょうが、戸惑う人もいるでしょう。それを楽にする技術、のようなものを彼が持っているのだろうと理解し、勉強になりました。
複雑な内面のままで存在できる状態、言い換えれば柔軟性を保ちつつ生きていける方がたぶん楽で、それをレジリエンスと言ったりするのでしょうけれど、その多面性を自覚でき、成長を促すのが言語化であり日記であると思います。
いきなり哲学的な事を書いてしまい申し訳ない。
勉強法には王道が存在するらしい
世の中の啓発本を読むと既視感だらけで、10世紀以前に書かれた本をわかりやすく書き直しただけだったりしますし、人権とかテクノロジー以外のことはだいたい古典を読んでおけば済むとは思うんです。でもぶっちゃけ面倒なので、効率良く頭が良くなりたいですよね。じゃあどうすれば良いかというと以下の6つがエビデンスがある学習方法だそうです。Listen!
- 間隔をあけた学習(スペースド・プラクティス):一気に詰め込むのではなく、学習セッションを分散させることで、同じ学習時間でも知識の定着を向上させ、ストレスを軽減します。好きならば集中して同じ科目を勉強すれば良いと思うけれど、そうでない場合は短時間に区切って!(ポモドーロテクニック!)いくつかの科目を勉強すると良いですよね。
- インターリービング(トピック間の切り替え):一つの学習セッション内でトピックや問題の種類を切り替えることにより、対比や類似点を意識しつつ、問題解決能力や理解力を高める方法。いきなり高度ですが、よりメタな視点で勉強できますね。2−3の章を循環しつつ学習すると、何を学生に身につけさせたいのかわかる事がありますしね。
- 質問を立て、詳細に考える:「どのように」「なぜ」という質問を立てて自己解決を試み、新たな知識を個人の経験や既知の事実と関連付けることで、深い理解を促進する方法。これも高度ですが、自分で自分に問いかける事はある程度学習が進んだ時に必ず通らねばならぬ道です。がんばれ。
- 具体例の使用:抽象的な概念を理解するために、具体的な実例を使用することで、情報の記憶と適用が容易になります。誰かが提示してくれれば楽なんですけどね。自分で探すには豊富な人生経験が必要であり、色々な人との会話や読書が必要であり、自分はテレビを見まくったし、ボランティアも役立ちました。記憶力も必要です。難しいぞ!!教師やる人はこの能力が真骨頂でしょうね。
- 言語情報と視覚情報の組み合わせ:テキストとビジュアルを組み合わせて学習することで、情報の二重表現を作り出し、学習スタイルに依存せずに記憶力と理解を向上させます。いったい脳は記憶をどう保存してるのか、と考えますとアナログ量の何かではあるのでしょう。そう考えるとビジュアルでも文字でもそう容量は変わらないはずだしむしろ映像で覚えてる説がありますからね!全部絵で覚えりゃ良いです。
- 自己検索の練習:ノートや教科書を使わず、自分が学んだ内容を思い出してメモを作って見てください。それは記憶を強化し、試験での情報の呼び出し能力を高めます。インデックスを作るにはこれですね。模擬テストを作って見たり、知っていることを全て書き出すことは、自分が理解不足である領域を特定することを可能にし、学習効果を最大化します。
もうやっていましたか?めちゃくちゃ難しいですね。しかし結構効率的です。真面目な勉強は非効率なんです。頭の良いとされる子ほど、傍目から見ると勉強しているように見えない。これは次から次へと勉強する項目を変えたり、頭の中でインデックスを作るためにボーッとしているのが、普通の人からは勉強しているようには見えないからです。優れた塾の先生は1、2、4、5は用意してくれてるでしょう。でも流石に3、6はできませんよね。
このうち人間が今のLLM(AI)より優れているかもしれないのは5の視覚化の部分です。それ以外は勝てる気がしません。
自分はこの10年は6を良くやります。自分の知識の確認に便利だからです。論文を書く事を繰り返す先生はどんどん頭が良くなっていきますね。元々の頭脳の良さが一定水準あれば、継続した努力がもっとも影響力が高いと思います。
人間はどのように尻尾と決別したのか
尻尾がないせいで人間は歳をとると尿漏れに悩みます。おそらく女性の血の道症も、男性の前立腺肥大も、尻尾があったほうが楽なはずです。尻尾を振ることはすごく骨盤のトレーニングになりますからね。どうして人間はこの便利な尻尾と訣別してしまったんでしょうか。
ほとんど全ての脊椎動物は尾を持っています。例外は少なくて、カエル、コウモリ、キーウィなど。マンボウはどうなんだろう。尾は便利に使われ、爬虫類はそれを自衛や獲物の捕獲に、犬や猫はバランスやコミュニケーションに、鳥は飛行に、魚類は推進に用いています。ヒトの祖先である霊長類にも尾がありましたが、約2500万年前から2000万年前の化石ですでに尾は消え、これはヒトの進化における最も重要な変化の一つと考えられています。
研究者たちは、尾の消失を引き起こした進化の圧力がいまだ特定できていません。霊長類が木から降り、地上で二足歩行を始めたことは当然関係があるのでしょうが。しかし今回、初めてこの劇的な変化の背後にある遺伝子メカニズムが特定されました。と、研究者は主張してるんだけどほんとかなあ。
Nature誌に掲載された新しい研究によると、この発見はヒトにおける尾の消失の遺伝学的説明になり、ヒトの二足歩行を促した進化の圧力についての理解も深める可能性があるらしい。
研究を主導したマサチューセッツ工科大学・ハーバード大学ブロード研究所のBo Xia氏は、2019年に尾骨を痛めて以来、座るたびに不快感を覚えるようになったことがきっかけでこの研究を始めたといいます。「この身体の部位について深く考えるようになった」とXia氏。そこで、ゲノム検索エンジンとも言える「ゲノムブラウザ」を使って、ヒトの祖先を含む類人猿と尾のあるサルとの違いを調べ、尾の消失に関連する遺伝子を探し始めました。
小学校・中学校の自由研究でこれを操作し、ゴチョゴチョっとやれば注目されること請け合い!
過去の研究では、マウスにおいて約100個の遺伝子が尾の消失と関連づけられており、Xia氏はヒトでも同様の遺伝子の一つが変異したことで尾が消失したのではないかと推測しました。しかし彼の検索プログラムは、AluYという「ジャンプ遺伝子」と呼ばれる要素にたどり着いたのです。ジャンプ遺伝子とは、DNAシーケンスがゲノム上で飛び回る性質があることから名付けられたもので、たとえば双子でも全く同じ人間にならないのは、遺伝子が発生途中で組み変わるこういう仕組みもその理由の一つだと言われています。
AluYがTBXTという遺伝子に飛び込んだことがヒトの祖先を含む類人猿の尾の消失につながったと研究者は考えています。TBXTは胚の脊柱の前身である notochord の発達に必要なタンパク質を作る働きをしています。
状況証拠的にも説得力があります。(ここは鵜川の考えです)
- AluYは3000万年前に登場した一番新しいAluファミリーであり、2500万年前の尻尾消失と時間的に整合性がある。
- Aluの影響は確率に従うようだ。だから初期の胎児には尻尾があることを説明できるかもしれない。
Aluファミリーは、ヒトゲノム全体で100万を超えるとされ、ゲノムの約10.7%を占める巨大な繰り返し配列です。変異が早いのでそれを研究することで進化の過程を追うことには大変便利に使えます。しかし変異は通常は破壊的に作用し、癌や家族性高脂血症など、主に病気と関連すると考えられてきました。
今回のように人間の形態を変化させると言うのは意外な発見です。AluYはTBXT遺伝子に飛び込んだ時、偶然にも別のAlu要素から1エクソン離れた位置に配置されました。この2つのAlu要素が反対方向を向いていたため、遺伝子によって生成されるRNAの中でペアを形成し、エクソンが尾の発達に必要なタンパク質の産生に組み込まれなくなり、尾の消失につながったと考えられます。わけがわからんけれどそう言うことだそうです。
ここまでだと計算機が頑張っただけだからNatureには掲載されないわけで、この優秀な研究者はここから気張りました。Xia氏と共同研究者のYanai氏は、CRISPR遺伝子編集技術を用いて、研究者たちはAlu要素をマウス胚のTBXT遺伝子に挿入しました。当初、できたマウスは依然として尾を持っていましたが、マシマシで遺伝子を添加するとマウスの尾は短くなったり、完全に消失したんだそうです。力技一本。確信があったのでマシマシにしたんでしょうが、お金かかっただろうなあ。
この結果は、AluYが尾の消失に大きく貢献しているものの、物語の全てではないことを示唆します。3000万年前、ヒトの祖先でAluY要素が登場し、尾の長さが短いものが現れたのでしょう。当初尾の長さにはばらつきがあったのではないか。そこからさらに変異が起き尾のない霊長類へと進化したのだろうと考えられるわけです。尾も便利そうだし、適者生存の結果というよりは、Alu要素はどんどん増えちゃうから勝手に尻尾が消えていったんだと考える方が面白いようには思います。にしても人類が気候変動や戦争以外で絶滅するとしたら、Alu変異なのかな。
Alu要素研究系譜の原点トランスポゾン(動く遺伝子)を発見したバーバラ・マクリントックのWikipediaは読み応えがあるのでどうぞ。ノーベル賞を取ったと言われた時に「まあ」と言ってそのままトウモロコシ畑に消えていったエピソードはあまりにも有名です。女性研究者で有名な人は承認欲求要素がゼロっていう方が多いです。必然なのでしょうが。
動機も大切だ
ライブを聞くと、録音された音楽とは違って左の(なぜ左なのか!もっと原始の生物を研究しなければ!)扁桃体が激しく反応するという論文です。え?人間って生と録音を聞き分けられるの?と思ったんですがそういう研究ではなくて、演奏者が被験者の脳反応をモニターで見ながら演奏を自在に変化させるという実験だったそうです。
この研究は、ライブ演奏が録音された音楽よりも脳の感情処理に関わる扁桃体の活動をより強く刺激することを明らかにしました。演奏者と観客の間に緊密なつながりがあると感情が刺激されるのです。録音された音楽ではなくライブ演奏が好まれるのは、より感情を揺さぶるからだと言えるかもしれません。
この実験にはしかし問題があります。一対一をライブと言って良いのか、普通は一対多だし、その場合は何にたいして演奏者は反応しているんでしょうね。録音に加えて映像があるとどうなのか、そんな事は検証されていません。少なくとも、インタラクティブ性のあるやりとりは感情を刺激する、ということだけは証明できている。ライブ音楽が良い、という事は言えない。
ではインタラクティブな反応がプログラムにより行えるならば、より大きな感動を人工的にもたらす事が可能になるかもしれないと自分は考えます。たとえばイヤフォンから視聴者の脳波を拾い出し、個別にインタラクティブなアレンジを生み出す事は可能でしょう。あるいはリアルタイムな作曲手法により感情を高めたりあるいは抑えるといった、個別化された音楽体験を提供も可能です。これに加えて仮想現実や拡張現実を組み合わせると新しい体験を創出可能です。
未来の音楽アルバムでは聞き手の感情で内容が変化する、そういう事も可能になるのでは無いかと思うのです。
こういう未来を想像できてしまうので、結局ライブとは「インタラクティブ性よりも動機(そこに至るまでのプロセス)が大切」という議論に戻っていくのでは無いか、そういう風にも考えます。
扁桃体は、側頭葉の内側にあるアーモンド形の構造です。側頭葉は、脳の側面にある脳の領域です。扁桃体は、大脳辺縁系と呼ばれる脳の感情処理に関与する構造の一部です。
扁桃体は、次のようなさまざまな機能に関与しています。
感情処理:恐怖、怒り、喜びなどの感情の処理に関与しています。 記憶:扁桃体は、感情的に喚起された記憶の形成と保存に関与しています。 学習:扁桃体は、恐怖条件付けなどの一部の学習形態に関与しています。 動機付け:扁桃体は、報酬と罰による動機付けに関与しています。
扁桃体は感情のみならず動機付けにも関連する部位で、それはその2つがあまり遠い脳機能では無い事を示します。
たとえば健康管理というのは多くの人間にとっては面倒臭いことですね。それを今回の実験に当てはめて考えた場合にはこういう違いが出ます。
- 患者さんの状態に細かく対応して良い医療を提供しようとすることは、感情に訴えます。
- とある有名医師にかかったり、自分で探して医者にかかることは自分の動機に関わる部分です。
この患者さんは扁桃体を#1で使うタイプ?#2で使うタイプ?という事は考えます。感情ばかりで自分で考えない人もいらっしゃいますし、動機中心で動いていて私の話を受け付けない人もおられます。そのうち、感情に訴えかける医療は生活習慣病や機能性疾患にはマッチしません。このズレを修正しながらうまくサポートできるような介入の仕方、を常に考えています。
本人による説明はありがたい
2023年版「アジアの科学者100人」に選ばれた広島大学の片山春菜助教がニュースになっていたのですが、メディアを読んでも研究内容が全くわからない。
ところが本人が書いた紹介記事を読むと実に簡単に頭に入ってきました。ありがたい時代です。企画した方に感謝したい。
量子の世界で起きる「不思議すぎる現象」…そこからホーキングが思いついた「あまりにも天才的なアイデア」(片山 春菜,畠中 憲之)
最初の記事ではシュレディンガー方程式が「不確定性原理」を導くこと。これをブラックホールの事象の地平線上で適用するとホーキング博士が予言した「最終的にはブラックホールが蒸発してしまう原理」が語られます。
まさか、「人工ブラックホール」がつくれるとは…「宇宙のナゾ」すら解き明かす「底知れぬ可能性」(片山 春菜,畠中 憲之)
ブラックホールがホーキング博士の予言通り蒸発するとして、その温度は観測するには小さな数字すぎて、ハードルが高く無理であることが示されています。そこで色々な学者が、エネルギーが脱出できるかできないかギリギリの状態(これが事象の地平線と同等)を実験室内で作り出そうと努力してきた事が語られます。
「電気回路のなかに宇宙を創造する」とは一体…日本から登場した「意外なアプローチ」が世界の注目を集めるワケ(片山 春菜,畠中 憲之)
筆者らはコンデンサーとコイルを組み合わせた回路を作ると、電磁波の振動を動的に変化させられて、さらにその電磁波を反対方向の永久に崩れない波(ソリトンと言います。以前鵜川医院レターにも書きました。ワープを可能にするかもしれない原理です!)と重ね合わせ、電磁波がちょうどソリトンと釣り合う点(事象の地平線)を作り出しました。なんとなくわかります?あとはここでエネルギーが消失していくことを、めちゃくちゃ感度の高い方法で観測すれば……できる!と考えているわけです。
さらに彼らは「電気回路によるインフレーション仮説の再現は手中にしている」とも書いています。通常はものが膨張するときは必ず速度は減少します。しかし電気回路を用いて加速しながらしかも膨張していくという回路をシミュレーション出来た、という事なのでしょう。サラッと書いてありますが、これはこれでワクワクが止まりませんね!!
Scienceに論文を載せた日本人研究者が自ら解説してくれるメディア、というものがありまして、資金不足からか2021年で終了しているのですが、これはこれで読み応えがあって良いものです。
「Scienceに載った日本人研究者」冊子:Japanese Scientists in Science | 医薬翻訳のアスカコーポレーション
漠然とした憧れで博士を目指すと多くの悲劇を生み出しかねません。研究のワクワクを言語化できる研究者は貴重だし良いロールモデルです。片山春菜さんは研究結果のみならず、言語化も上手で感銘を受けました。
見出しから中身を想像する文章の読み方
「なぜ人は自然が好きで自然に癒されるのか?に関」という見出しをインターネットで見ました。私の科学に関する「読む手法」を披露します。
先にその論文内容を想像することから始まります。そうして「びっくりポイント」があれば良論文、想定の範囲内ならば「その他」として記憶から消します。一方それがNatureとかScienceとかCellに載った論文で、しかも想定の範囲内だった、という場合には自分が見落としている「びっくりポイント・世の中へのインパクト」があるはずなので、一生懸命読み直します。そして「ああ、ここがすごいのね」と理解するようにしています。このようにして自分の知能をブラッシュアップしています。
では最初に示した論文に関して自分の仮説を考えてみましょう。
- 地球上最初の生物は単細胞生物であっただろう。
- 光合成がはじまったのはいつだ。
- 食物連鎖がいつ始まったのか。
- いずれにせよ、食物連鎖の一番下の層が、緑色の生物なのではないか。
- であるならば、安心とはイコール、食べ物があること、ではないか。
- 食べ物と水ならどちらが重要だろうか。
- どちらかというと水か?
- 青が1番で、緑が2番か。
- 他に生物は緑から恩恵を受けるだろうか。
- 空気の美しさ、静寂さ、日光を遮ってくれる、匂いはどうだろうか。
- 緑は体に良いという論文はあるか。
- 緑は視力に良い、という論文はある。
など、一人ブレインストーミングをします。これらを踏まえて、chatGPTに仮説を考えてもらうとこうなります。
1. 自然との深い進化的つながり
- 基本的な生存ニーズ:最初の生物が単細胞生物であり、光合成を行う緑色の生物が地球上の生命体にエネルギーを供給し始めたことから、緑色の生物が生命の基盤となる食物連鎖の底辺を形成していることは、人間が自然、特に緑を好む根源的な理由かもしれません。この進化的経緯は、緑色の環境が安全で食料資源が豊富な場所であるという無意識下の認識を生み出している可能性があります。
- 水の重要性:水は生命の源であり、その可用性は生存に直接的な影響を及ぼします。水域近くの緑豊かな環境は、食料だけでなく、水も利用できることを示唆しているため、青と緑の色が好まれる理由として進化的に意味を持つ可能性があります。
2. 自然に対する多面的な恩恵
- 空気の質と静寂:植物は空気を浄化し、酸素を供給する役割を持っており、自然の中で過ごすことが心身の健康に有益であるという研究結果があります。また、自然環境の静寂は、都市部の騒音からの逃避と精神的リラクゼーションを提供します。
- 日陰と冷涼感:樹木は日差しを遮り、周囲の温度を下げることで快適な環境を作り出します。これは特に熱帯地方や夏季において重要です。
- 匂いと視覚的魅力:自然の中の植物から発生する香り(例えば、花や森林の土の匂い)は、心地よいと感じられ、リラクゼーションに寄与します。緑色は視覚的にも安心感を与える色であり、視力にも良い影響を与えるとされています。
3. 進化的適応としての自然愛
- 安全と資源の指標:自然、特に緑豊かな環境が提供する安全感と資源の豊富さは、人間がそのような環境に引き寄せられる進化的な理由かもしれません。自然が好きであり、自然に癒される感覚は、そういった環境が生存と繁栄に有利であるという、深く根ざした進化的記憶の反映と考えることができます。
- 遺伝的記憶と学習:人々が自然を好み、自然にいることで癒されると感じるのは、遺伝的にプログラムされた傾向と、個人の経験や学習が複合的に作用する結果とも言えます。緑豊かな環境で育ったり、積極的に自然に触れる経験をすることは、これらの感覚をさらに強化する可能性があります。
このような進化的仮説は、人間が自然を好む理由と自然に癒される理由を理解するための基盤を提供します。さらに、この仮説は、現代社会において自然との接触を増やすことの重要性を強調し、都市計画、教育、そして個人の生活選択に影響を与えることが期待されます。
さてここまでが自分の考えた仮説です。実はこの論文はPLOS ONEという査読なしの学術論文サイトに掲載された論文であり、論文としての価値は高くありませんでしたのでここに載せるのは遠慮します。内容も残念ながら上に示した内容に少し足りないという程度のものでした。
さて、緑が心理に好影響を与えやすいのならば、それをなぜかなどと難しく考えずにそれで良しとするべきです。理由を考えたいなら、たとえば盲の人の心理はどうなのか、男性に多い赤緑色盲はどのような進化適応なのか、生物で緑を認識しない生物があるか、などを研究すべきですが、そういう視点が決定的に欠けている論文であって、著者らに結論を出す事はできないとは感じました。いずれにせよ、多くの研究で緑があることは心理にポジティブな影響を与えることはわかっています。鵜川医院の診察室からは緑が見えますが、当然そういう効果を狙っての設計です。嘘です。
査読なしで掲載できる雑誌には、arXivなど複数あり注目すべき内容のものもあるのですがそうでないものも多いのは事実です。
ではどう論文を読めば良いのか、を考えた時に有用なのが今回示した「タイトルから中身を想像」です。
みなさんも私の書く文章を「わからない」と拒絶せずにタイトルから中身を想像してお楽しみ下さい。
腸内細菌はコレステロールをコントロールする
コレステロールを低下させる代表的な薬、スタチンは遠藤章先生により開発されました。赤麹の中から独力でそれを発見(彼にとっては2番目)し、毎年ノーベル賞と言われています。かなり端折りましたがそういうストーリーです。赤麹のサプリメントは従ってコレステロールを下げますけれど、薬を飲んでいるのと何ら変わりません。
スタチンはコレステロールを下げることを通して抗炎症作用など面白い薬理作用があり、インフルエンザの重症化を予防するという報告がありますし、COVID-19でも当初死亡率が低いかどうか検討されました、実際死亡率は低かったようですね。
コレステロールは白血球の燃料だから、コレステロールが下がれば炎症は落ち着くんです、と患者さんには単純化して説明しています。(感染症は過剰な免疫反応により死亡する経路が多い)ちなみに鉄も白血球の燃料に相当しますから、コレステロールも鉄も過剰になれば炎症が起きて危険なんですよ、と言えば患者さんにとってわかりやすくありませんか?
ちょうどいい、が大切
さて、生物の細胞は1gあたり1億個ということになっています。それに対して細菌は1mgあたり1億個ということになっています。よくこのヨーグルトには何億個!って書いてありますが、何mg混ぜたのかな?ってのがわかりますね。
60kgの人間だと細胞の数は60兆個です。主に糞便に存在する細菌は体重の0.3%とされ180gすなわち18兆個と計算されます。これが正しいかどうかは異論があるところ(だいたい両方とも30-40兆個という論文あり)ですけれど、人間の細胞の数と、細菌の数は匹敵するぐらい多い、ということだけが言いたくて長々と前置きを書いています。ヤクルト1000には何mgの菌を入れているか推定せよ、という問題が作れそうですね。
Statin drugs might boost healthy gut microbes
ところで、スタチンを飲むと便通が変わる、という人は少なくありません。
血中のコレステロールが下がれば肝臓で作られ十二指腸に分泌されている消化成分、胆汁酸の量と質が変わるので当然ちゃ当然かな?と思うわけですが、特に胆汁酸が多い肥満の人ではその影響は大きかろうと思うわけです。痩せた人ではもともと胆汁が少ないので影響は軽微です。
平滑筋の動きにも若干影響は与えます。これは筋肉のコレステロール代謝を通じて生じる変化です。
こういう生理的な、当然生じうる影響も「副作用」の一つですが、原理を理解している医師にとっては対処はそんなに難しくなかったりはします。(生理学、という授業で習うのですが国家試験には出ないので忘れている医師も多いです)
自分はコレステロールの治療をするときに頭の中で胆汁酸の事を思い浮かべながら治療します。だいたい3:1ぐらいの比率で胆汁酸のコレステロールも大切だ、と考えています。痩せた高脂血症の人に食事制限をする無意味さ(逆効果)はここから導き出されます。すごく大事な事を3行で書いてしまいましたが鵜川医院ブログの読者は以下の文章を目にした事があるかもしれません。
今回、Jeroen Raesたちの研究チームは、バクテロイデスと呼ばれる悪玉腸内細菌叢が肥満の人では多いという報告をNatureに掲載したらしいのですが、これがスタチンを飲んでいるとかなり抑制される、という事を見出しています。
スタチンが肥満の人の腸内細菌叢を良くする、とも言いかえられますが、これはなぜそうなるのでしょうか。謎っぽく語られていますが、肥満の人の胆汁酸はスタチンで大きく変化するだろうから、その影響が一番大きいと考えるのが自然でしょう。むしろそうじゃないなら教えてくれ偉い人。
Gut Microbiome Drives Metabolic Diseases in Post-Menopausal Mice
さて、この論文は閉経後のマウスに関するものです。人間でも閉経後はコレステロールが上昇したり血糖や血圧が上昇しますが、それは女性ホルモンによる保護がなくなるからですね。その状態では肥満の人と同様に腸内細菌が悪くなってしまいますよ、という内容。そこからちょっと発想を飛躍させます。この閉経後に太ってしまったマウスの便を、他の健康なマウスに移植すると、レシピエントである健康なマウスも太ってしまう。これは以前より証明されている事実ではあるんですが、性ホルモンと関連した代謝の変化まで糞便移植で他のマウスに移行してしまうというのは、なかなかインパクトがある内容です。
一定のエサしか食べないマウスとは異なり人間の腸内細菌は多様な食べ物の影響を強く受けますから、スタチン飲めば全部解決、ではありませんけれども、参考になりますね。ちなみに自分は腸内細菌は薬で補給するのが一番コスパや合併症、考慮しなければならない因子が少ないので、ヨーグルトを食べましょうと勧める事はあまりありません。腸内細菌が役立つ話を書くと勝手に自分でヨーグルトを作って食べたり発酵食品を食べまくったりしてどんどんコレステロールが上がったり、アレルギーになったり、下手すると感染症を起こしたりする人がいますから予防線を張っておきますね。もちろんだめでもありません。好きなヨーグルトがあってそれを食べて調子が良いのであればどうぞお召し上がりください。何が自分にあっているのか観察して判断してみるのも大切な行為です。
ーーーー今回はここまでーーーー
雑記
- CoCo壱番屋のスープカレーはとても美味しいという記事を見た。(ちなみに自分はベジソースが好きだ)その中で「フレッシュなオクラが入ったカレーはインドにはない」というコメントがあった。フレッシュなオクラが入ったスープと聞いてあるものを思い浮かべ、CoCo壱番屋のサイトを見ると、普通に切ったオクラがスープに浮かんでいただけであった。残念。
- ニューオーリンズはフランスの植民地であった関係で料理が非常に美味しいので有名だ。その中で「ガンボ」という名物料理がある。アメリカ合衆国に行けばどの街のスーパーでもガンボの素は売っており自分で作る事は可能。しかしニューオーリンズで学会があって訪れた時に、本物の美味しさには驚愕した。
- ホルトハウス房子という人がいて、家庭でスパイシーなカレーを作る文化を普及(?)させたような存在だ。全然普及していないか。鎌倉で料理教室を開いていたらしいがもちろんそんな事は知らずに彼女の本を読んで高校時代自分で作ってみた事がある。1回は成功、1回は失敗。勝率5割だったと記憶している。
- 懐かしくなり、彼女の本を古本屋で買ってみた。もはやレシピには興味が向かないのだが、しかし彼女が「ニューオーリンズのガンボ美味しい」と書いているではないか!さすがセレブ主婦である。そして自分は完全にその部分を読み飛ばしており、ガンボと出会うまで10数年を要したという事になる。
- 自分が食べた装飾的なガンボだが、シンプルなリゾットを作って皿に敷く、フレッシュなオクラを茹で細かく刻んでそこに乗せる、さらにその上に好きな具とスパイスで香り付けしたスープを注いで出来上がる。おそらくそれをスープカレーで作っても美味しいに違いなく、勝手に妄想して楽しんでいる。