微生物伝播 / お腹が鳴るのを止めるには / こころにしみいる声 / 地域医療の未来
目次
社会的な微生物伝播の意義
ピロリ菌の疫学から紐解く「生物学的レジリエンス」
Nature 2025: Social transmission of the human gut microbiota
保育園や幼稚園という「集団生活」の場は、教育の機会であると同時に、目に見えない微生物たちの巨大な交換市場でもあります。 最新の研究データとピロリ菌の疫学を組み合わせることで、私たちは「感染」という現象を、多様性の獲得という新たな視点で捉え直すことができます。
1. ピロリ菌動態が示す「水平感染パワー」

ピロリ菌の尿中抗体保有率を調査した研究によると、入園時にはほぼ0%だった陽性率が、卒園時には約10%まで急上昇することが判明しています。
- 入園時 (3歳頃): ほぼ 0%
- 卒園時 (6歳頃): 約 10% にジャンプアップ
- 卒園後: 小中学校でも率は変わらない
このデータは、親子感染(垂直感染)よりも、保育園のような濃厚接触の場での水平感染が、この時期にいかに強力であるかを示唆しています。
ピロリ菌感染の診断後、子供への垂直感染や、家庭内での水平感染を心配する方に話すことがよくあります。
2. 「5歳の壁」と開かれた窓
ピロリ菌の陽性率が卒園後に横ばいになるという事実は、私たちの胃腸環境における「定着の窓」が5歳頃までに閉じることを示唆しています。 これは、乳幼児期が外部の微生物を受け入れるための決定的な期間であることを意味します。

微生物交換市(マイクロバイアル・バザール)
Nature 2025: Social transmission of the human gut microbiota
最新の研究では、保育園内で子どもたちの口腔細菌および腸内細菌が、驚くべき速度で共有されていることが示されました。

🦠口腔細菌の広がり
- 唾液や玩具の共有などを通じ、腸内細菌よりもさらに高頻度で共有されます。
🧬腸内細菌の多様性獲得
- この水平伝播は、抗生物質などで失われた多様性を回復する機会にもなり得ます。
結論:一生ものの「生物学的レジリエンス」へ
従来のリスク視点
新たなレジリエンス視点
⚠️「保育園は感染症の巣窟であり、ピロリ菌などのリスクを避けるために注意が必要である。」
🛡️「保育園は生物学的多様性を獲得する聖域。適度な衛生管理の下で、社会から微生物のギフトを受け取る重要な期間である。」
補足:ワクチンの重要性はさらに増している
ここで述べた議論は、すべての感染症を無条件に受け入れるべきだという意味ではありません。
重要な点は、「避けるべき感染」と「社会的に制御すべき感染」は、すでに明確に区別されているという事実です。
麻疹、風疹、ポリオ、百日咳、Hib、肺炎球菌など、重篤な転帰や後遺症を残し得る疾患には、有効性と安全性が検証されたワクチンがあります。また、ピロリ菌も避けるべき感染症であり、ワクチン開発が行われています。
アンチワクチンの人々が主張するような、すべての免疫を「自然に獲得する」ことには、生物学的にも社会的にも合理性はありません。回避できるリスクを、あえて引き受けることは、本人にも集団にも利益ももたらさないばかりか、格差を生み出すからです。
一方で、今回扱った腸内細菌叢のように、宿主との相互作用の中で意味を持つ微生物群も存在します。
感染症を十把一絡げに理解せず、
- 重篤性
- 可逆性
- 社会的制御可能性
- 代替手段(ワクチン・治療)の有無
を踏まえ、社会設計をしていく必要があります。今後ますますワクチン戦略は重要になります。
さらに付け加えるなら、ワクチンは現在進行形で進化し続けている技術です。
「ワクチンがまだない感染症」は、生物学的・免疫学的に開発が難しい場合が少なくなく、ピロリ菌はその代表例です。
今後も新興感染症、抗菌薬耐性菌、粘膜免疫に関わる病原体、さらには癌、高血圧、高脂血症など、「作らねばならない、そして実現可能なワクチン」は数多く残っています。
ワクチン科学は、危険な感染症を減らすことで人類のレジリエンスを高めてきましたが、その役割は固定されたわけではなく、ますます広がっていると言えます。
保育園という「微生物交換市」という現象も、放置して良いわけではありません。我々がより良い戦略を設計するにあたって大切で参考になる、生物学的学習空間として位置づけられ、理想的な微生物交換が語られる時代ももうすぐ来るだろうと想像しています。

すべてを肯定する性格だから
テレビ局を名乗る電話がかかってきた。おそらく本当は下請けの制作会社であろう。 いつもなら無視を決め込むところだが、今日の僕は気まぐれだった。受話器を取ったのが運の尽き、あるいは向こうの運の尽きか。守秘義務が生じるような案件でもなさそうなので、ここに記してしまうことにする。ちなみに10年前、まだ僕のブログがGoogleで上位に表示されていた頃の話だ。
聞けば、「お腹が鳴るのを止めるための民間療法」について、一般人にアンケートを取ったのだという。
担当者は困惑していた。一般人が挙げる「工夫」の数々、その一つ一つに対する理論的な裏付けが取れず、番組として成立しないというのだ。
挙げられたのは以下の通り。
- 背中を伸ばす
- ゲップをだしてみる
- 息を吸って止める
- 息を吐いてから背中を叩く
- ナッツを食べる
- チョコレートを食べる
- 合谷(ツボ)を押す
- 炭酸飲料を飲む

4つほど提示されたところで、僕は即座にこう返した。
「素晴らしい。どれも理にかなっている。実に納得のいく工夫だ」
電話の向こうで担当者が絶句しているのがわかった。「え? 理にかなっているのですか?」と、素っ頓狂な声が返ってくる。
「当たり前だ」僕は彼に説いた。
「患者というのは嘘をつかない。効果があるからこそ、その行動をとる。それが医学的にどう説明できるかを後付けで理解するのは、我々医師にとって造作もないことだ」
そもそも、お腹が鳴る音が「胃」由来なのか「横行結腸」由来なのかという議論はあるが、それは置いておく。
例えば「ゲップを出す」という行為。これは胃・結腸反射を減弱させる効果があるし、そもそも腹が鳴る人は無意識に空気を飲み込む「呑気症」の傾向がある。ゲップで余分な空気を抜くのは、ストレスと戦う彼らの防衛本能として正しい。
「息を吸って止める」のもそうだ。これは腹圧を高めて物理的に運動を抑え込もうとする、会議室での緊急回避策として有効だろう。
「息を吐いてから背中を叩く」に至っては、逆に腹圧を下げ、振動を与えることで腸内のガスをスムーズに移動させる高度なテクニックだと言える。
ネット上では「炭酸飲料はガスが溜まるからダメ」と一蹴されがちだが、これも人による。炭酸はそもそも吸収が早いので、いくら飲んでも音の原因になることはない。胃壁を刺激し、受け入れ反射を起こさせることで蠕動を強制的にリセットさせる。そんな可能性だってあるのだ。
僕は一つ一つの回答に対し、いわば「患者プロファイリング」を行うように理由を付与していった。つまり、この答えを言ったのは20代のデスクワーク女性だ、酒は呑まない、などの背景を添えていったわけだ。もちろん全部嘘に決まっているのだが、バレるわけもなかろう。ちょうど「シャーロック」にはまっていた頃だから、クソ生意気なホームズ気取りで一つ一つ喝破していった。
少し悩んだのは「チョコレート」だが、これも推測はつく。単に空腹による収縮を抑えるために糖分を欲している場合もあるだろうが、カカオに含まれる成分や脂肪分が、特定の人間の消化管運動を、例えばCCK経由で抑制的に働かせている可能性も捨てきれない。ドイツにはチョコレートで便秘をするという文献があり、下部消化管の蠕動すら止める可能性がある。
つまり、僕が言いたかったのはこういうことだ。
人間が己の体と向き合い、試行錯誤の末に編み出した「生活の知恵」に、医学的な無駄など一つもない。すべてに屁理屈──いや、正当な理由はつけられるのだ。
「テレビ出演に『うん』と言ってくれる先生がなかなかいなくて……」と担当者は嘆いていた。
そりゃあそうだろう。一般に通りの良さそうな正解・不正解だけを求める番組作りにおいて、こうした個別の文脈を汲み取る作業は敬遠されるし、ネガティブな評価も覚悟しなくちゃいけない。それに、テレビに出るのは医者にとっては負担だ。忙しくなるから。むろん電話に出るということはすごく暇に違いないのだから、出てくれる人はいるかもしれない。電話で医者を探す作戦は完全に正しいよ、がんばれよ、と慰めた。
だが最後に、番組の仮タイトルを聞いて苦笑した。
どうやら『それはしちゃだめ(仮)』という、NG習慣を指摘する趣旨の番組だったらしい。
すべて理論的な裏付けがないのも困るだろうが、そこへ僕が「全部いいよ、全部正解だ」と全肯定の太鼓判を押してしまったのだから、担当者はさらに困ったに違いない。
企画の趣旨を最初に説明しないのが悪いのだが、それでいい。テレビ的にはアウトでも、患者の生活にとっては、それが真実なのだから。
ところで企業の開発部署のインタビューにも何度か呼ばれたのだが、すぐにクビになった。その理由はこの「全肯定」の癖である。企業としては売れる製品を作りたいのに、評価者である僕が「うん、いい、全部いい」と褒めてばかりでは役に立たないということであろう。
同じ様に生徒全員を褒めてしまうため、「教育者には向いていないかも知れない」と言われたことがある。医療は命がかかっているので、厳しくしなくちゃいけない場面があるのだ。
すべてを肯定する性格は、ときどき不便である。

こころにしみいる こえとはなにか
50歳前後の男性が神妙な面持ちで診察室の椅子に座っていました。
「先生、僕は反省してます」 「何を」 「検診を受けたんです」 「はい」 「当日、担当らしい先生に呼ばれちゃいました」 「どうして?」 「脂肪肝なんですって」 「おーそうなんですか」
毎年僕もエコーの時に言ってるんだけど、どう違うんだろう?特別な異常なのかな?
「僕の細胞に、脂肪がついちゃってるそうです」 「細胞に!」 「細胞の中です」 「細胞の中かー」
急に細胞が可視化されて驚きました。
「それを聞いてから頑張ってる」 「何を?」 「朝はお茶漬けにしました」 「おーーいいですねー、響いたんですね」 「響いた」 「細胞の中まで脂肪が、ってフレーズ。良いなー、びびった?」 「びびった」 「その表現をする発想がなかったなあ、悔しい」 「笑」
脂肪肝ですって言っても、あんまり響かないのかもしれない。一般的な言葉すぎて。
脂肪肝を、「肝臓に脂肪がたまる」
と表現することが多いんですが、それだと映像が思い浮かばない。
松尾芭蕉が急に思い浮かびました。
俳句は、説明をしません。ただ言葉を置くだけで、我々の頭の中で世界が形作られる。
検診後の説明で起きたことは、それとよく似ていました。
「細胞の中に脂肪がついちゃってる」
この表現は芭蕉の精神を受け継ぐことにならないか。
あるいは「細胞のところに脂肪がついちゃってる」だったかもしれないとのことですが、これも同じく映像が想起される。
人間の心に残るのは、長い説明より、短い映像。
芭蕉も、そして今のTikTokも、その一点では同じなのかもしれません。
この原則を今後も肝に銘じたいです。

「常識」が覆る時:2025年国際学会から読み解く地域医療の未来
私は消化器疾患や免疫、内分泌に関しての専門家ではありますが、20年ほどプライマリ・ケアに取り組んでいて、とっくに、専門性を捨てています。これを「アンラーニング」というそうで、現代医師が行うべきトレンドらしいのです。
その「プライマリ・ケア」という切り口で現代の医療を見た時に、2025年のイノベーションは?と資料を集めてまとめたのがこの文章です。
2025年、米国や欧州の主要な国際学会(ACP、AAFP、ECIM、WONCA)で話題になった研究をまとめました。内容は、単なる薬物療法の更新に留まらず、我々が日常的に扱う疾患の定義そのものも常に見直されていることが確認できます。それを見ていきましょう。
日本は少しガラパゴス的なので、すぐに影響を受けるものは多くないのですが、本稿では、その中でも特にインパクトの大きい4つのパラダイムシフトを概観し、明日からの診療にどう落とし込むべきか考察します。
1. 高血圧診療の「ブラックボックス」解体:原発性アルドステロン症の普遍化
自分自身「日本のプライマリ・ケアに欠けている」と感じていたところで、開業医としては珍しくACE阻害薬をすりつぶして負荷テスト、も10年以上続けているので驚きはないのですが、それがとうとう標準化されました、という話題。
長年、「原因不明(本態性)」として扱われてきた高血圧ですが、原発性アルドステロン症(PA)が多く含まれていることに気づきなさい、というガイドラインが出ました。今までは「低カリウム血症を伴う」ときだけ調べていた医師がほとんどでしたが「高血圧全体の5~10%以上を占めるコモンディジーズ」として積極的に対応せよ、となりました。
JSH2025ガイドラインの改訂に象徴されるように、一般診療レベルで、すべての高血圧患者に対してスクリーニングの積極的な拡大が求められています。これは、高血圧診療を「血圧という現象の管理」から、「ホルモン過剰という根本原因への介入」へと深化させます。地域のかかりつけ医は、漫然と降圧薬を増量するのではなく、まず血漿アルドステロン濃度(PAC)と活性型レニン濃度(ARC)の測定を初期セットに組み込むという、新たなトリアージ能力が求められます。当院では必ず行っていることですが。
隠れたPAを見つけ出し、適切な治療(MRAまたは手術)へと繋ぐことが、脳卒中や心房細動といった心血管イベントを劇的に減らす鍵となるのです。
2. 薬物療法による「外科的効果」の達成:肥満症治療のフロンティア
けしからん美容外科がインクレチン関連薬を不適切に使用してメンタルを病む方が増えてしまう、こういう悲劇は我々プライマリ・ケア医がこの薬の処方に取り組まないからかもしれません。糖尿病専門医の薬ではない、という認識を持つ必要がでてきました。
インクレチン関連薬に痩せ薬としての利用価値があることが理解されてからの進化は留まるところを知りません。特に、GLP-1/GIP/グルカゴン受容体を標的とする「多重作動薬(Multi-agonist)」Retatrutide(トリプルGと言われる最新薬:リリー)が示した「体重の約30%減少」というデータは、これまでの薬物療法の限界を完全に凌駕し、代謝改善手術(Bariatric Surgery:胃切除)の効果に肉薄します。(長期使用の欠点や値段などネガティブな要素は大きいけれど、少なくとも肥満に伴うあらゆる病気を減らし全死亡率を下げるので、製薬メーカーとしては夢の薬です)
糖尿病専門医と比較すると、我々プライマリ・ケア従事者には、患者の社会的な変化や、長期フォローに対応することも期待されていると言えます。従来の栄養指導・運動療法を組み合わせたチーム医療が弱い部分が難点でしょう。
3. 創薬なきイノベーション:帯状疱疹ワクチンと認知症予防の予期せぬリンク
2025年最も「予期せぬリンク」として注目されたのが、帯状疱疹ワクチンが認知症の新規診断リスクを約20%低下させる可能性を示した英国ウェールズの大規模疫学データです。これは、高額なアミロイド抗体医薬(日本製)に頼るのではなく、既に安全性と供給体制が確立された「既存のワクチン」に、人類最大の脅威の一つである認知症を予防する効果が見出された、公衆衛生学的にも経済的にも計り知れないインパクトを持つ「ドラッグ・リポジショニング的革新」です。
患者に対し、「激痛の予防」に加えて「脳を守る可能性」を二段構えで伝えることは、ワクチン忌避を克服する最強のツールとなります。多くの自治体で助成制度が始まっている今、これはプライマリ・ケアの現場で、高額な新薬を処方するよりも遥かに容易でアクセシビリティの高い、即時導入可能な介入手段と言えるでしょう。帯状疱疹ワクチンはシングリックスがお勧めです。
4. 非ホルモン性更年期障害治療薬「Elinzanetant」の登場
家庭医療/婦人科領域において、更年期障害(特に血管運動神経症状:VMS)に対する非ホルモン療法「Elinzanetant」の登場と承認(米国FDA、欧州EMA等)は、2002年のWHI研究(Women’s Health Initiative)以来の停滞を打ち破るブレイクスルーでした 。
4.1 主要な研究成果
Bayer社のElinzanetant(ニューロキニン1,3受容体拮抗薬)は、第3相試験(OASIS-1, 2, 3)において、中等度から重度のホットフラッシュを頻度・重症度ともに70%以上減少させ、それのみならず睡眠障害やQOLも有意に改善したことが注目されました。さらに、乳がんサバイバーなど、ホルモン補充療法(HRT)が禁忌となる患者群を対象としたOASIS-4試験においても高い有効性と安全性が示されています。
4.2 分析および詳細評価
歴史上の文脈:WHI研究の呪縛からの解放
2002年のWHI研究により、ホルモン補充療法(HRT)の乳がんや心血管リスクが強調されて以来、更年期医療は長らく「我慢する」か、リスクを承知でホルモンを使うか、あるいは効果の弱いサプリメントや抗うつ薬(SSRI/SNRI)で凌ぐかという、不毛な時代が続いてきました。Elinzanetantは、この「空白の20年」を埋め、ホルモンを使わずに同等の効果を得られる選択肢を提供可能にするのです。日本での発売はしかし未定です。ドラッグロスと言われる状況があるのです。
真なるイノベーション:脳科学的アプローチによる解決
エストロゲン枯渇による症状を、ホルモンを補充して治すのではなく、エストロゲン低下によって暴走している脳内の体温調節中枢(KNDyニューロン)を、ニューロキニン受容体拮抗薬によって直接鎮めるという全く新しい機序で解決した点が画期的です。特に、「乳がん治療中の女性」という、これまで最も激しいホットフラッシュに苦しみながら有効な治療手段を持たなかった層に対し、科学的根拠のあるソリューションを提供した点は、医学的のみならず人道的にも大きな意義があります。
温故知新:不定愁訴の科学的解明
更年期のホットフラッシュや睡眠障害は、かつて「気のせい」や「自律神経失調」として曖昧に扱われてきました。Elinzanetantの開発過程は、これらの症状が視床下部の特定のニューロン(KNDyニューロン)の活動亢進という明確な分子メカニズムに基づいていることを証明し、ターゲット治療を可能にしました。漢方医学的な「気逆」の概念を、現代薬理学が分子レベルで解明したとも言えます。
一般診療に落とし込めるか:プライマリ・ケアでの管理
経口薬であり、1日1回投与という簡便さは、家庭医や一般内科医にとって処方しやすい特性です。これまで「婦人科でホルモン治療の相談を」と紹介していた症例を、プライマリ・ケアの現場で完結させられるようになります。ただし、新薬としてのコスト(1錠3,000円、1年間で120万円とも)をすべての保険組合が認めるかどうか、ましてや日本発売は不透明です。
将来展望:睡眠薬としての可能性
非ホルモン治療は、HRT禁忌例だけでなく、一般の更年期女性に対する第一選択肢(First-line)の一つとして確立されるでしょう。さらに、この薬剤の持つ「睡眠の質改善効果」に注目が集まっています。更年期における不眠症治療のあり方を変え、ベンゾジアゼピン系薬剤への依存から脱却させる契機になる可能性があります。
番外編. 医療の持続可能性とAIによる再生
最後に、国際学会が共通して議論したのが、医師の「燃え尽き」の問題です。医師の早期引退は加速しています。かつては引退のない職業だった医師をやめてしまう理由は言うまでもなく医療の「事務化/形式化」で、それは本来の仕事とはかけ離れた作業と言えます。生成AIを用いる事で、医療秘書以上に事務作業から解放される可能性があり、医師の燃え尽き予防戦略として注目されています。
2025年の潮流は、医学が「臓器別・細分化」から、全身を俯瞰する時代へと回帰しつつ進化していることを示しています。幸い当院では以前から行っていることばかりで、何も変わらないわけですが、追いつかれてしまったなと焦ります。これらの知見を単なるニュースとして消費するのではなく、10年後は何か、と考えながら診療の質をアップデートし続けることが大事だなと考えています。