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10月はピンクリボン月間

記憶が混乱しているのですが、おそらく自分は医学部に入ってから、夏休みにまとまった時間があると父の勤務する杏林堂林病院を見学していたと思います。ある日病室で「この男性は乳がん」と説明してもらいました。もちろん男性にもあり得る病気ですが、珍しい症例がよくこの小さな病院に、などと感心していました。父が勤務していた林病院は、早期胃がんに関しては大学よりも父一人の手術数のほうが多いぐらいで、手術も間近で見られるので勉強になりましたが、乳がんも多く診ていました。1985年ぐらいですから、まだマンモグラフィは検診にはなく、最新のエコーでスクリーニングを行っていました。その機械は大学にも入っていなかったので、やはり勉強になりました。父のお弟子さんの安田秀光先生は乳腺エコーで有名で、当院のエコーは安田先生のお勧めに従って一番よく見える機械を使っています。従って現在も、来院する女性で30歳以上であれば全員に「乳腺は見ておきますか?」と声をかけ続けています。

ピンクリボン運動がはじまったのは1992年だそうですが、今後もずっとメジャーであり続けるがんなので、皆さんにはなるべく正しく予防とか早期発見とか心構えとか情報共有方法とか基本的な治療に関して知っておいてほしいと思っています。

リスクを計算する

乳がんリスク評価ツールは米国で作られ、対象者は35歳以上の女性。その「評価は、医師と共にそれを行う」ことを前提としています。なぜならば、結果によっては患者さんが狼狽える場合もあるからです。このツールは医師が一緒に考えてこそ最適な戦略を立てる助けになります。解説https://www.cancerit.jp/uploads/nci_breast_assessment_tool.pdf )を載せておきます。今までも必要時にこのツールで皆さんの最適な戦略を考えてきましたし、今後もそうします。しかしリスク評価以前に大切な事もありますよ。

Breast Cancer Risk Assessment Tool: Online Calculator (The Gail Model)

一般的なリスク

自分でコントロールできるリスクとしては以下のようなものあります。

肥満、喫煙、飲酒、運動不足、糖尿病

これらについて悩んでいる時は、一人で抱えずに我々に共有してください。

セルフチェックは月経後のタイミングで

乳腺は表層にあるが故に、腫瘍は自分で見つけることが可能です。1-2年に1度の検診に頼りっきりにせずにセルフチェックを皆さんがしているからこそ、より早期に発見することが出来ていると言えます。

  • お風呂で石鹸を使って身体を洗っている時に指の腹で乳腺を触り、硬いしこりがないかどうか探す。
  • 鏡の前で両手を万歳して乳房の形の変化を見る。そして表面に凹みやひきつれがないかどうかを見る。(早期のがんでも凹みやひきつれが見えることがあります。形がおかしいから進行しているのでは?とびびらないで良いです)
  • 乳頭部から血液が分泌されないかどうかチェックする。

このような異常を見つけた時は相談して下さい。

カナダでは高校生に保健の授業で教えると聞きました。大切な事なのでぜひ身につけておいてください。

検診の受け方

国は乳がんの検診について、40歳以上の女性に対し「2年に1度の問診とマンモグラフィー検査」を受けるよう推奨しています。

米国では米国予防医学専門委員会(USPSTF)が50歳〜74歳の女性に対し、2年に1回のマンモグラフィー検査を推奨。アメリカがん協会(ACS)は45歳から毎年のマンモグラフィー検査を推奨。55歳以降は2年に1回の頻度に変更可能としています。40代の女性、あるいはそれ以下の女性については主治医と相談という事になっています。

なぜマンモグラフィーか

癌が出来ると白血球が集まってきてそれにより小さな石灰化を生じます。比較的ゆっくり大きくなる癌でそれが著明です。マンモグラフィーは再現性が高く、安価に行える点で優れておりエビデンスが蓄積されているのです。一方で閉経前女性は乳腺量が多く小さな石灰化を検出しにくかったり、石灰化の起きないタイプの癌もありますので、はっきりとしたエビデンスが得られない。このため海外では日本よりも推奨年齢が高くなっていて、若い人は各自の判断とされているのです。繰り返しますが閉経前女性は医師と相談しましょう。

なぜ2年に1回なのか

微小石灰化で見つかる癌は比較的ゆっくり進行するものが多いので2年に1度でエビデンスがあるのだろうと思います。

すり抜けを防止してくれるのがエコー、MRI、自己触診

マンモグラフィーはごく小さな癌を見つけられるメリットがあります。しかしそれでは検出しにくい癌もあるので、それをエコー、MRI、自己触診などで補うのが賢い方法です。私はマンモグラフィーの時代の前からエコーで診断しています。前述したように腹部エコーの際に乳腺は見ますから、検診のバックアップとして機能します。

若い人にはマンモグラフィーを勧めない

ときどき一部保険組合の検診で20代の若い女性にマンモグラフィーを勧めているようですが、正直おすすめできません。直接「有効性に疑問があります」と組合に連絡してくれた先生もおられるようですが、ご注意ください。

より良い選択肢があるのか、調べたいとき

インターネットで検索すると良質な情報にたどり着けません。癌の知識が豊富な(自分のような)医師に聞いたり、CopilotやGemini、Perplexityなどの人工知能に聞いたりすると良いでしょう。

前立腺肥大の低侵襲手術

前立腺肥大の治療戦略には流行り廃りがあるのですが、最近またいくつか登場してきているので紹介します。このような治療の経験談は、米国の掲示板を読むと良いです。赤裸々に皆さん語っていまして、いざ治療を受けるときの参考になりますが、手術を受け感想を書いている人々は概ね65歳未満である事は特記すべきでしょう。

経尿道的水蒸気治療【Rezum】

経尿道的前立腺吊り上げ術【UroLift】

これらは合併症が少なめで性機能が維持できる、という点でも支持されているようです。

その他従来より、

経尿道的レーザー前立腺切除術【HoLEP】

経尿道的温熱療法【TUMT】

などがありますね。

解説しているホームページを貼り付けておきます。わかりやすく書かれていると思います。

前立腺肥大症|坂泌尿器科病院

鵜川医院そばの横断歩道は99%認識されていない

昭和大学藤が丘病院の目の前に横断歩道があって、渡ろうとするとほぼほぼ車が停まってくれます。やはり病院の前は違うのか、と思うわけです。

ところが鵜川医院のそばの横断歩道ですが、この20年で車が停まってくれたのは1回きりです。確率にしたら99%ぐらい停まらない。異常だなと思うほどに停まらないのはなぜなんだと考えていました。

賢い小学生がいるもので、その課題を解決しようと自由研究をした。

彼の場合は、時間と交通量のほか原因をドライバーに求めていますが、これは都合よく彼の調査した横断歩道で歩行者を無視する車の頻度が適度にばらついたからでしょう。いやむしろばらついたから彼は課題を認識したに違いありません。

「いかつい兄ちゃんは止まってくれる。止まってくれないのは…」 小学6年生が横断歩道の“車の停止率”を調査 “止まる車”と“止まらない車”の意外な傾向とは…?|中京テレビNEWS NNN

昭和大および当院のようにほぼすべて停まる、あるいはほぼすべて停まらない横断歩道の違いはなんでしょうか。やはり道路が要因なのでしょう。歩道の有無、平均スピード、見通し、周囲の目などなど。歩行者を運転者に正しく認知させることはとても難しいです。おそらく鵜川医院前の道路を走っているドライバーは、立ち止まっている歩行者が見えていません。

日本では30m以内に横断歩道がない場合、歩行者は横断歩道がない場所で道路を横断しても過失はないと判断されているようで、こと生活道路ではいつ歩行者が横断するかはわからないと考えて、常に30m以内で停止できる速度で走るべきです。

横断歩道の50m手前および30m手前ではダイヤマークがあります。しかしそれを認識したとしても40km以上で走行していれば、完全停止は難しい。

時速30km以下で走行している限りは、おそらく事故は未然に防ぐことは可能ですが、現在の法令では生活道路でそれ以上の制限速度になっている場合が多々あります。

そこで今回、事故減少を目的として生活道路の速度を時速30kmまでに制限する新しい法律が2026年9月より施行されます。妥当なアルゴリズムと言えるでしょう。

「生活道路」法定速度時速30キロに引き下げ決定 再来年9月から | NHK

さて自動運転では、自動車同士、自動車と歩行者、道路と自動車、の双方向通信技術が欠かせないと思い、その技術仕様を検索していたのが5年ほど前でしょうか。

車同士ではDSRCという規格があるのですが、どうしても人を守るとなるとスマホにその機能を載せねばなりません。一方もともと携帯から発せられる4G、5Gの電波を利用するV2Xという規格もあって、現在はV2Xが徐々に認められてきているようです。トヨタもC-V2Xを使った実験を行っています。日本と海外では周波数が違うので今後はこれを統一する事になるのかなと思います。

C-V2XとDSRCの違いと今後の展望、世界各国のV2Xの導入状況について

双方向通信のない自動運転はあり得ませんね。調べてみると漠然と考えていた未来が、一歩一歩近づいていることを感じます。

視力5.0の世界はこう実現される

ものを見る細胞の密度を計算するとおおむね視力2.0が限界だろうと考えられるのに実際は5.0あるいは6.0などという視力の人々がいる事に関して、以前鵜川医院ブログでこのようなエントリーを書きました。眼球運動を加えることで、視力を上昇させることが可能だ、という論理です。このような考えかたをした人がいなかったようで、そこそこのページビューを稼いだ記事です。

視力5.0の世界とは

10年を経て、それがどう実現されるのかを解明した論文が出たみたいです。普遍的な事実はなにか、の仮説を立てるのが趣味なので、それが当たったように感じ嬉しいです。

Subtle eye movements optimize vision

微細な眼球運動と視覚認知の関係

人間の視覚は、網膜上の微細な構造と眼球の動きによって最適化されています。特に、網膜の中央にある「黄斑中心窩(fovea)」は、色を識別する錐体細胞が密集しており、最も鮮明な視覚を司っています。これらの錐体細胞は、視覚情報を脳に送り、私たちが物を見る際の細部を鮮明にする役割を担っています。しかし、これらの錐体細胞の配置は均一ではなく、密度や分布は個人差があります。

しかし今回登場する視覚を形成するうえで重要なもう一つの要素が「微細な眼球運動」です。この眼球運動は、無意識のうちに絶え間なく行われ、視覚認知に影響を与えることが明らかになってきました。

眼球が固定されたように見えるときでも、実際には「微細な動き」が常に発生しています。この微細な動きには、「微小振動」と「ドリフト」の2つがあり、視覚認知において特に注目されているのが「ドリフト」です。ドリフトは、視線が固定されているときにゆっくりと起こる小さな動きであり、視野内の視覚情報が動き続けることを可能にします。この動きがなければ、視覚の神経信号が固定され、私たちの視覚がかすんでしまう可能性があります。

最新の研究では、このドリフトが黄斑中心窩の錐体細胞の密度に精密に適応していることが示されました。つまり、眼球の微細な動きは、視覚の解像度を最大化するように動的に調整されるのです。具体的には、視覚刺激が錐体細胞の密度が高い領域に移動することで、視覚信号が増幅され、より鮮明な視覚が得られることが分かりました。これは、ドリフトが視覚認識に必要な情報を網膜上で「最適な位置」に移動させることで、脳が微細な視覚情報を処理しやすくしていると考えられます。

この研究は、16人の被験者を対象に行われ、高解像度の補償光学走査型レーザー検眼鏡(AOSLO)を使用して、黄斑中心窩の錐体密度と眼球運動を同時に観察しました。被験者には視覚的に難易度の高い課題が与えられ、その間、眼球の微細な動きと視覚刺激がどのように対応するかが解析されました。研究者たちは、ドリフトが視覚の鋭敏さを増幅することを確認し、ドリフトの長さや方向が視覚認知において重要な役割を果たすことを示しました。

さらに、この研究は、従来のカメラのピクセルと人間の錐体細胞の違いを浮き彫りにしました。カメラのピクセルが静止しているのに対し、人間の錐体細胞は微細な眼球運動により動的な位置取りを行います。これにより、単なる物理的な解像度を超えた視覚認識が可能になると考えられます。言い換えれば、視覚は単に受動的に映像を記録するだけでなく、眼球の動きによって能動的に解像度を補完し、視覚の鮮明さを向上させているのです。

この発見は、視覚の基本的な仕組みを理解するだけでなく、眼球運動と視覚障害の関係を解明する手がかりにもなります。たとえば、加齢黄斑変性症や緑内障などの視覚障害は、錐体細胞の劣化や分布の異常が原因とされますが、眼球運動の調整によって視覚の質を改善できる可能性があります。また、視覚情報処理に関する知見は、網膜インプラントや人工視覚技術の開発にも応用されることが期待されます。これにより、視覚障害者に新たな視覚体験を提供できるかもしれません。

結論として、微細な眼球運動は視覚の解像度を最適化するうえで重要な役割を果たしており、錐体細胞の密度分布に適応することで、より鋭敏な視覚を実現していることが明らかになりました。これにより、視覚の基礎メカニズムに関する新たな理解が得られただけでなく、今後の医療技術や視覚補助装置の開発における新たな可能性が開けると考えられます。

『すべての、白いものたちの』

ミーハーなもので、ノーベル文学賞が決まると同時に唯一電子書籍で入手可能だった、ハン・ガン『すべての、白いものたちの』をKindleに入れた。

Amazon.co.jp: すべての、白いものたちの (河出文庫) eBook : ハン・ガン, 斎藤真理子: 本

予備知識で彼女がワルシャワに長期滞在した時に書かれたっぽい事だけ知っていた。

前書きに「白」をテーマに書こうと思ったと言うような経緯が述べられ、そのまま彼女の記憶とワルシャワの街並みに没入していきます。

読みやすい散文詩のような短編の集合体なのであっという間(それこそ1時間もかからずに)に読み終わってしまい、言葉が美しいなあとか、グリーフと再生の物語だなあとか、漠然と感じつつも、それ以上ぐるぐると考える事はなかった。ある意味完結した物語だったから。

しかしあとがき(韓国では「作家の言葉」というそう)を読んでいなかった事に気づいた。かなりの量があるのです。

ネタバレになりますが、私が読んだのは初版が出てから2年後に発売された改訂版であること。そして初版にはなかった「作家の言葉」が付記された。それにより、小説全体の組み立ての意図が明らかになります。いわゆる謎解き。そのために、もう一度読み直さなくちゃならなくなりました。

これはすごい。読みながらなんとなしに違和感はあったのです。しかし「作家の言葉」を読むまでわかんなかった。

ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞したとき最初に読んだリンクはこれです。

〔文学の森ダイジェスト〕平野啓一郎が語る『少年が来る』──国民的トラウマを「当事者でないからこそ書く意味」とは | 平野啓一郎公式サイト

自分は慶応SFCで短い間お手伝いをしたことがあって、その時平野さんを知りました。講演をしに見えたから。言葉が美しい方で、時々手に取って読む作家です。

このサイトでは『少年が来る』について書かれていて、彼の『葬送』を書いたときポーランドを想起したと書かれています。ハン・ガンさんとのリンクが見られる。

さて、『すべての、白いものたちの』の解説として平野啓一郎さんが文章を寄せています。そして解説の中で東日本大震災後の自著『空白を満たしなさい』についても触れています。リンクがあると感じておられる様子。たまたま私はこの本を読んでいたために、平野さんが、この『すべての、白いものたちの』を読んだ時の感動が素直に沁み込んできました。

日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞したことも、ハン・ガンさんが受賞したことも、明確に「戦争後を考えよ」のメッセージだとは思え、忘れてはならないこととしてまた心に刻んだのでした。

一方自分ときたら

それ以来、なんとなく『白』にとらわれています。ハン・ガンおそるべし。

患者さんとの会話

「おはようございます」

「おはようございます」

「昨日の夕ご飯、マックでしたか?」

「いえ、マックではありません」

「そうですか、いや聞いてみただけなんですよ」

「内視鏡の前の日にはマックを食べないといけないんですか?」

「いいえ、マックを食べたんだなーとわかるんです」

「ほんとうですか?」

「ほんとうです。十二指腸が油で真っ白になります」

「え!」

「なんでこんな事を聞いたかというと、ノーベル賞のせいです」

「ノーベル賞?」

「ノーベル文学賞をお取りになったハン・ガンさんご存知?」

「いえ」

「彼女の本で、白をテーマにしたものがあるんです。白という色を死と再生に結びつけた小説を読んだばかりです」

「ああ、今年の?」

「はい、そうです。ところが自分ときたら白と言えば油、みたいな発想をしてしまいましてね」

厚木では白といえば白コロですし、やはり脂肪か。

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